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パブリック 図書館の奇跡のTEPPEIのレビュー・感想・評価

パブリック 図書館の奇跡(2018年製作の映画)
3.3
【見逃した映画特集2020】、アップリンクにて鑑賞。チャーリー・シーンの兄である、エミリオ・エステベスの監督・脚本・主演作は、大寒波が襲うシンシナティの公立図書館を舞台にしたドラマ。

あまりの寒さに凍死するホームレスたち。そんなホームレス達は日中、公立図書館で暖を取っていた。しかし、行政の規則により夜になれば退去を命じられる。シェルターも不足しているオハイオ州。公立図書館で働く、ある過去を持つスチュアートはホームレス達の身を案じているが、規則は規則。大寒波が襲うある夜にも渋々退去を促すが、ホームレス達はついに図書館占拠を決意する。

気楽に楽しめるコメディではなく、むしろ社会派ドラマ。ありとあらゆる社会問題や、見え隠れする行政の問題や矛盾点をアイロニー交えて、作品全体を通して、アメリカ現代社会の限界テーマを訴求する。本作の製作年は2018年。
トランプ政権下のアメリカを背景に、メディアや有権者の圧力による印象操作や、人権運動の扇動、スタインベックによる社会主義、スタインベックの「怒りの葡萄」と図書館権利を絡めて、痛烈にアメリカを皮肉っているので非常に「ねちっこい」印象。
1920年代のアメリカ文学、フィッツジェラルドがとにかく大好きな自分としては、少し年代は違うがスタインベック作品を扱いながら、中々ユニークな試みをしている本作には好感を持てた。本が好きな鑑賞者にはストライクゾーン広めで楽しいものが多い。

映画のつくりは、時々ユーモア、そして社会派という流れがわりと一本調子で物語は動かない。動いたとしても微々たる野次、登場人物たちが180度違うキャラクターになった発言や行動もあって、変な忙しさばかりが目立ってしまった。
伝えたいことが多すぎたのかもしれない。ホームレスと図書館を起点にどう広がっていくのか楽しみにしていたぶん、詰め込み過ぎて、退屈な瞬間がいくつかあった。
脇を固めるアレック・ボールドウィン、ジェナ・マローン、クリスチャン・スレーター、ジェフリー・ライト達の熱演が勿体ないくらい。
公民権運動のメタファーや、資本主義への反旗などの要素はたしかに揃っていたのかもしれないが、何というか、伝え方や伝えるものの比重、つまりバランスが勿体なかったのがこの作品への不満だった。

総評として「パブリック 図書館の奇跡」は面白いキャラクター達がいて、見応えあるドラマもあるけど、時々訪れる退屈で無理解なシーンと詰め込んだ要素を消化不良のままにしてしまった。現実と同じく、あらゆる問題は解決していないからリアリスティックなのかもしれないが、作品としての落としどころは観たかった。
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