滝和也

パブリック 図書館の奇跡の滝和也のレビュー・感想・評価

パブリック 図書館の奇跡(2018年製作の映画)
4.0
人生の中で
どんなに頑張っても
どうにもならない事
がある。その時に人は
怒りの葡萄を心に
実らせて行く…。

その怒りの声を上げた
人々の物語…。

「パブリック 図書館の奇跡」

ヤングガン、張り込み他80年代に一世を風靡したエミリオ・エステベスの監督・脚本・主演の社会派映画の佳作。シンシナティの図書館に起こった一夜の出来事を描く…。

スチュアートはシンシナティの公共図書館の司書。今日も開館の時間にホームレス達が列を成している。極寒の中、暖を取り、トイレで体を吹き、そして時間をつぷす。そんな彼らも閉館と共に街に消えていく。だが、極寒の夜、凍死者が出始め、一人のホームレスが図書館前で凍死した。またジャクソン達ホームレス仲間のシーザーも行方不明に。ジャクソンはスチュアートに次の日告げる、今日は俺たちは帰らないと。見かねたスチュアートは彼らに協力し始める…。

これは中々…地味ながらウェルメイドな作品でした。ヤングガンの若者が大人になり、見事な作品を送り出したと言う事ですね。

アメリカにはセイフティーネットがなく、成功も転落も自己責任…。そんなイメージです。転落した者には確かにシェルターがあるのですが、その数は足りない位のホームレスがいて…彼らにとって公共図書館は最後の砦と言う事になる訳です。スチュアートはいくつかの理由から彼らに味方し、警察・市長に立候補しようとしている嫌味な検察官と戦います。

その中で流用されるのが、スタインベックの怒りの葡萄の台詞。冒頭に意訳した内容です。その内容はアメリカンドリームばかりが米国でなく、失敗し消えてしまう怒りの声が存在している事を表しています。ホームレス達は嘗てアメリカの為に戦った退役軍人が多い設定でベトナム以後も続くアメリカの問題からもそれをなぞらえています。

そう見るとかなり、ハードなイメージかもしれませんが、この作品の旨さはその内容を軽く、柔らかく、身近に感じるようにユーモラスに生き生きと伝えた演出にあると思います。深刻過ぎず、そしてある意味爽快さを感じさせるそのラスト。嘗て戦争映画でまぼろしの市街戦と言う作品があったのですが、それを想起させました。

エミリオは弱く、普通そうな人物でありながら、隠された背景を含んだ人物であるスチュアートをリアルに演じています。またジャクソンを筆頭にホームレス達のユーモラスな演技、ジフリー・ライトが演じた上司も味があり良かったです。また脇を飾る女性陣も好感が持てて良い感じでした。

ジェフリーライトが語る公共図書館は情報の自由という民主主義を支える最後の砦だと言う台詞が素晴らしく、僕には刺さりました。パソコンもあるし、本から知識も得られれば、確かに正しい情報から民度が上がりますからね…。

社会派なれど硬いだけでなく、しなやかなセンスのある佳作でした。これも図書館から借りてきましたが、地元の図書館、センスあります(^^)
滝和也

滝和也