モクゾー

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のモクゾーのレビュー・感想・評価

3.5
●壮大に動く"仕掛け絵本"

いかにもウェスアンダーソン作品という作品だった。偏執的なまでのシンメトリーと色使い…このご時世に作家性で客を呼べる、飛び抜けた監督である。
グランドブダペストホテルから、より顕著になった正体のカメラアングルと、直角的なつなぎ…本作でウェス色はさらに磨きがかかっているといえるだろう。

今回はフレンチディスパッチ誌という新聞社が出す別冊誌を舞台にした、いわゆるグランドホテル型の群像劇となっているが、
ブダペスト…と比べてもストーリーの筋が削ぎ落とされており、各チャプターごとに、「僕の考えた素敵な世界」を、嬉々として見せられる感じである。

編集及びカメラワークの直角性においては、私としては紙芝居を連想する。
木枠の、フレームの中に収まった絵画を、シュッとスライドして次の世界に展開していく、、実際演者が動きを止めることで行うストップモーション(的な何か)はまさにそのものだと思う。
しかし、さすがウェス…画面細部の作りこみと、色々なギミックをそこに仕掛けている。
となると紙芝居というよりも、いろんな部分を動かせる、仕掛け絵本…という方がさらに良いのかもしれない。


本作品で観客の興味を引っ張るのは、徹底して"センス"である。というか、それだけの作品である笑
物語性を追うのではなく、いかに世界観に浸れるか…の勝負となるので、好き嫌いは分かれるだろう。

そしてもう一つの重要要素はオールスターキャスティングであることだと思う。
この映画、知らないキャストだけでやられていたら堪らないのではないだろうか…とにかく有名俳優を次々と打ち込んでくる。

筋がなく、強い個性をキャラクターにするのとができるというのは、俳優としては冥利に尽きるのかもしれない。

あげればキリがないと思うが、私としてはクリストフ・ヴァルツをこんなもったいない使い方していたのが衝撃であった笑

とにかく本作は監督の感性に合うか合わないかの一点勝負だと思われるので、是非映画館の大きなスクリーンで没頭して欲しいと思う。