へたれ

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のへたれのレビュー・感想・評価

3.7
良かったとこ1 語り方がレベルアップした
平面的な絵作り、カメラの水平移動、パステルカラーという今までのウェス・アンダーソン印だけでなく、その他にも表現方法の引き出しがかなりあった。まず全編を通じて白黒の比率が多く、時折入るカラー画像がむしろアクセントになっている。次に、刑務所の中で成長してベネチオ・デルトロになるところの、舞台演出を意図したような演出。さらに、舞台の劇中劇のシーンがシームレスに映画に戻るシーンなど。語り口の引き出しが多いおかげで、全てのエピソードが流れるように見られる。どんな内容でも面白く喋れる人がいるけれど、今作のウェス・アンダーソンはまさにそんな感じ。

良かったとこ2 雑誌であることを意識させる序盤
The New Yokerをモデルにした雑誌、特に往年の総合雑誌を映画で表現するという構成なので、雑誌のようなごった煮感が重要。その点で、3つのエピソードが始まる前の短いご当地ガイドのようなエピソードがとても効果的だった。フランスの架空の都市の今と昔を紹介するこの短いエピソードが、総合雑誌にありがちな短い観光コラムのよう。雑誌の表紙をイメージしたタイトルと、この短いエピソードのおかげで、単なる3本のオムニバス映画ではなく、雑誌のような構成が保たれていた。
さらに、ジャック・タチの映画で見たような、建物の下から上まで歩いて移動するシーンもあって、60年代のフランス映画感もちゃんとあった。

良かったとこ3 やたら豪華なキャスト
可能であれば、誰が出演しているか全く知らずに見た方が楽しめるぐらい、チョイ役に至るまでやたらと豪華なキャストが出てくる。しかも今までやっていないような役をやっている人もいるので、意外な組み合わせも楽しめた。

ダメだったとこ 形式に見合う中身がない
雑誌記事を映像化したという体裁なので、オムニバスのエピソードがどれもあまり面白くならずに終わる。特に2本目は68年のフランス五月革命を描いている割にはチェスゲームで茶化しているだけだし、3本目も警察の食事という着眼点は面白いけれど、そこから発展がなかった。
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