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8番目の男のmaverickのレビュー・感想・評価

8番目の男(2018年製作の映画)
4.5
2018年の韓国映画。2008年に韓国で初めて導入された国民参与裁判の実際の事件を基にした作品である。


何やら緩い感じの作品かなと思いきや、これが意外なほどに秀作で驚く。本作を観れば陪審制度の重要性がよく分かる。『8番目の男』というタイトルもぴったりだ。『十二人の怒れる男』の韓国版と呼んでもいいかも知れないが、内容はまたがらりと違う。コメディベースでくすくす笑わせながらも、真実を追求してゆく陪審員のひたむきさに引き込まれる。韓国映画らしい熱く感動的な作品。めちゃくちゃ泣ける。

陪審員8番である主人公を演じるのは、ドラマ『花郎<ファラン>』や『力の強い女 ト・ボンスン』で人気のパク・ヒョンシク。頼りなさげで軟弱な男かと思いきや、彼を起点として裁判に大きな変化が起こる。「早く終わらせて帰りたい」そう思っていた陪審員たちが真剣に裁判と向き合うようになるのだ。この主人公を中心に話に引き込むのがとても上手い。彼を含めた陪審員たちはどこにでもいるような人達で構成されており、観る側がそこに気持ちをシンクロ出来るようになっている。自分の決断が他人の人生を大きく左右するということ。そのことの重要性をしかと感じれるような作りがされている。

陪審員たちは裁判のことをよく知らない人たちばかりであり、度々ルールから外れた突拍子もない行動を取ってしまう。国民参与裁判自体が初なので、裁判官もこれには面食らう。これが笑いの要素となっていて面白おかしく見れるのだが、こう見せることで陪審制を分かりやすく説明しているのも上手い手法である。多くの映画やドラマで法廷シーンが映し出されるが、そのほとんどがプロ同士のバトルであり、一般人の目線から裁判のしくみを解説してくれるのが斬新であった。

そしてこの素人目線というのが裁判にも大きな意味を持つ。法律のことをよく分からない素人を裁判に参加させることには否定的な意見もある。素人によって罪状が大きく変わってしまう恐れがあるからだ。それでもなぜ陪審制が必要なのか。それこそが本作の重要な部分である。素人である彼らは時に突拍子もない言動をする。だがその発想は、弁護士や検事、さらには裁判官でさえ及ばない解釈を引き起こすことがある。それが新事実に繋がることさえあるのだ。そうでなくともいろいろな立場からの意見というのは貴重である。本作ではまさにそういうことを描いている。

やり手で優秀な裁判官を演じるのは『オアシス』のムン・ソリ。演技派女優である彼女が演じる裁判官は貫禄があり素晴らしかった。感情に流されずに的確な判断を下す。だが裁判官も人間。淡々と仕事をこなすことに慣れてしまうことの怖さにはっと気付かされる。「初心忘るべからず」どの職種にも必要なことだ。


コミカルとシリアスの塩梅も素晴らしく、本当に良く出来てるなと感じるドラマだ。法廷ものを重たくしすぎずに描いているが、命の重さを描いてあるため、そこはしっかり真摯な姿勢で向き合っている。心打たれる作品性で素晴らしい。陪審制をテーマにし、さらに感動的なドラマに仕上げた手腕はお見事だ。

次から次へと優秀な作品を生み出す韓国映画に驚くばかり。様々なところに目線が向いており、それを深く追求しているなと感じる。この作品も斬新で非常に面白かった。満足!
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