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燃ゆる女の肖像の一のレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.9
セクシュアリティ・フェミニズム・社会性
それら全てを超越した完全無欠の大傑作

この映画を観てしまうと“映画史に残る”なんて軽々しく言ってはいけないと思えるし、こういう作品こそがまさに“映画史に残る”映画なのだと痛感させられる圧巻の映画体験

心が激しく揺さぶられる凄まじい余韻すらも心地良い
何から何まで全てが美しいこの映画をいつまでも観ていたい

18世紀フランスを舞台に、望まぬ結婚を控える貴族の娘と彼女の肖像を描く女性画家の鮮烈な恋を描く

『Portrait de la jeune fille en feu』はたまた『Portrait of a Lady on Fire』と、邦題が決まる前から映画関連の記事で何度このタイトルを目にした事だろうか…
個人的には今年(去年)一番楽しみにしていた映画と言っても過言ではなく、なぜかアカデミー賞にはかすりもしませんでしたが、カンヌで脚本賞・クィアパルム賞を受賞し、世界中で大絶賛され話題沸騰だったこの映画が、日本ではいつまでもお預けにされており、もはや劇場公開スルーされてしまうのではという恐怖すらあったので、公開が決まったときは心の底から歓喜したのを今でも覚えています

ポスタービジュアルから既にセンスしか感じないが、中身はそれどころじゃない

完全に女性の世界が描かれており、男性は一瞬出てくるのみ
自由のない時代に恋に落ちた二人の限られた時間
炎のように儚くも美しく燃え上がる鮮烈な恋を、時に激しく情熱的で、時に恍惚とするほど繊細かつ美しくパワフルに、圧倒的映像美で映し出される

文学的であり、紛れもなくおフランス映画ではあるものの、ロマンチックで純粋に恋愛映画としても文句の付けようがないのに、ひとつひとつのカットの全てがアートに見えるほど芸術性にも非常に長けているともなれば隙がなさ過ぎる…

丁寧にじわじわと心情が描かれており、二人のどうしようもなく切なくて、どうしようもなく愛おしいやりとりなら、マジで永遠に観ていられる
極端なアップで映し出される細かな表情の変化すらも、微笑ましくも美しくて深く胸に突き刺さる

特徴的な火と言うよりは炎がいくつものシーンで登場するが、崖の向こうに見える美しく真っ青な海の壮大さには思わず息を飲む

キャンバスをなぞる筆をシャッシャっと動かす音、炎がパチパチとなる音、服がこすれる音、さらにはそれぞれの息づかいにまでわたる微かな音までもが鮮明に伝えられるのにもいちいち鳥肌

なにより手拍子と共に徐々に音量が上がっていくオペラのような音楽の凄まじいパワー
問答無用で鳥肌がヴァアアーっと止まらないあれはちょっとズルいくらいだが、それも最高の映画体験
「LaJeune Fille en Feu」(曲名)

女性同士の恋愛というと『アデル、ブルーは熱い色』や『キャロル』が真っ先に思い浮かぶが、 本作はそれらよりも『君の名前で僕を呼んで』を想起するような終始大人の雰囲気が漂いながらも極めてアーティスティックな作品
直接的な性描写はないが、脇を使った表現や、キスの後に糸を引く感じは新鮮だし生々しいエロティシズムをふんだんに感じられた

この上ないキャスティングがこの上ないパフォーマンスで魅せてくれたので、この上ないLGBTQ作品として見事に完成されたということがよくわかる

アデル・エネルはもちろんですが、エマ・ワトソン似のノエミ・メルランが、強面ながらも女性らしい一面を表情ひとつで見せてくれる感じが最強

劇中での画家とモデル、これは監督と役者にも重ねる事が出来るので、セリーヌ・シアマ監督と実生活でも本当のパートナーだったアデル・エネル主演というのが効いてくる演出も多々見受けられる

癖を指摘する微笑ましくもグッとくる場面なんかは、プライベートでもそうなのかなと勘ぐってしまうような可愛らしさでたまらなかった
ラストシーンに関しては、『万引き家族』の安藤サクラの神がかり的な泣きの演技を思い起こすほど脳裏に焼き付いて離れない

とにかく好きなポイント上げていくときりがないほど魅力しかない超絶大傑作

こんなに完璧な映画を完璧なスクリーンの完璧な座席で見れて完璧にうち打ちのめされた
間違いなく映画館で観るべき映画
いうまでもなくセリーヌ・シアマ監督はとんでもない才能の持ち主ですね

〈 Rotten Tomatoes 🍅98% 🍿92% 〉
〈 IMDb 8.1 / Metascore 95 / Letterboxd 4.4 〉
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