はる

バクラウ 地図から消された村のはるのレビュー・感想・評価

4.4
ブラジルが舞台という知識さえも無いままに、評判のみを頼りに観るという態度の者にとっては素晴らしく裏切られる作品。
ブラジルといえば『シティ・オブ・ゴッド』という発見が随分前にあったことを思い出す。そしてバイオレンスという点において通じるものとなった。また社会を反映した作品という意味でも。

ネタバレになるが、冒頭の人工衛星からGoogleアースのような映像とはそぐわない郷愁を誘うような曲は、ブラジルの女性シンガー、ガル・コスタのもので彼女は軍事政権に抗議する活動家でもあったという。あとで調べてそれがわかると「なるほどな」と思える。
冒頭から不思議な描写が続くが説明はなされないまま不穏な空気が流れる。少しずつの違和感も、バクラウという村が「キロンボ」という逃亡黒人奴隷が形成した集落の歴史を反映したものだとわかると、色んな描写が納得のいくものになる。

作中で死者の名前をDJの彼が読み上げるが、それらの中には実在の人物の名前が含まれていて、そうした人物たちは奴隷解放や貧困層への働きかけをしてきた過去の運動家、元大統領の妻だったりする。
観賞中も後も「変わった作品だなあ」と思っていたが、こうして作中に込められた事柄を考えると、とても政治的なテーマを持った物語だということがわかる。

そしてあの殺人集団が象徴するのはブラジルにとどまらない、世界のどこかで行われているヘイトや迫害、暴力だ。だから加害側のつもりのそいつらが見事なまでに返り討ちにあうクライマックスは強烈な描写であり、見事なカタルシスを伴っていた。少し思い出すのは『ウィンド・リバー』だったりしたね。あの見張り番のような夫婦が真っ裸でえげつない大口径の銃を腰だめで撃つとか最高すぎる。あの場面で二人はポルトガル語さえも話していない。先住民ということだろう。

面白い作家が出てきたなと思う。
はる

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