ベルサイユ製麺

ANIARA アニアーラのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ANIARA アニアーラ(2018年製作の映画)
4.6
[GATEWAY OF ZEN]そして[The Beginning of the End of the End of the Beginning]

嗚呼、無常。
自らの心を御する事すら出来ないのに、人類が地球を出るなんて早かったのだ。凡そ600万年程は…。


人類の火星への移住計画。
宇宙船アニアーラは多くの人類を乗せて、火星を目指す3週間の旅…の途中で、アクシデントによりあっさりと航行不能になってしまった。
幸か不幸か、アニアーラには人々を生かし続けるのに充分な生命維持の為の機構が備わっているし、病んだ心は人工知能ミーマ“様”が癒してくれる。後は、惑星の軌道に再び乗るのを待つだけだった。希望的観測で、最長二年程!
…それから三年後

…四年後

…五年

…六



ちょっとホントにスイマセン!!…自分なんとか日曜日まで宇宙物SFだけで乗り切りたくて、全然予備知識無しでカッチョいいジャケの今作を掴んでしまったんですが…

《完全に分不相応!!》
こんな純度の高いハードSF、自分には歯が立ちません!!
ストーリー自体は、◆〜◆の通り、ただ漂うだけになった巨大宇宙船の中で、船長のオプティミスティックな発言を信じ込んだ人々が、次第に艦内で社会のようなものを形成していくのだが(←荻上チキ風)、長期化する艦内生活に徐々にその社会の有り様は変容し…という様を、年月の経過で区切り、章立てして語られます。
主人公は、アニアーラに搭載された超高性能AIミーマのインストラクターの女性MR。
ミーマは、人間の脳内の美しい記憶を増幅して楽園的ビジョンを投影し返す事によって強制チルアウトさせてしまうという甘美なマシンなのです。まあしかし、アニアーラ艦内にはそもそもゲーセンやショッピングモールもバッチリ完備されてるので、(ましてや3週間だけを楽しむつもりの人たちには)この地味でダウナーな施設は当初は完全に無視されておりました。
…ところが、先行きも終わりも見えない長い長い漂流生活に突入すると、自我を保てなくなった人々が殺到する様になります。ミーマ大盛況!
…殺到する悲観的な人々の脳内ビジョンを見せ続けられたミーマは…という辺りで折り返し地点。

…と、来るってえと、普通“AIが暴走、宇宙船をコントロールするように…”って思うじゃないですか⁈
…はぁぁあ、ところが今作、ホントに硬派なんだよなぁ。以降描かれるのは、“徐々に綻び始める艦内生活”、“カルトの台頭”、“謎物質との遭遇”と“情報統制型ディストピア”と、人類の未熟さ、不合理さ、そして何より弱さの縮図を見せつけられるような展開ばかりなんですよね。こんな奴ら火星に着いててもダメだよ…。

…それにしても今作、非常に難解です。なんでも原作はノーベル文学賞受賞作家によるものだそうで、当然単なる漂流パニック物とかではありません。散りばめられた数々の手掛かり…
“ミーマ”とは何の象徴なのか?(まあ、いつものアレだとは思いますが…)
“槍”は誰がなんのために遣わしたのか?
何故主人公は“レズビアン”なのか?“燃料棒”はメタファー?
“カルト”の信仰対象は?
“下から上に流れる”オープニングのスタッフロールの意図は⁇
…等々、疑問だらけでひとっつも理解出来た気がしません。うう、もう一回観たい!時間と能力が欲しい…!

因みに自分のこの拙い書き振りだと全然観たくなる要素が見つからないと思うのですが、単純にこの作品、ビジュアルイメージが素っ晴らしいです!冒頭の宇宙エレベーターのHolocaust感から、続く超巨大宇宙船アニアーラの全景…が“Power of ten”よろしく引きになった時のちっぽけさ。モノリス…というよりブラックチョコのカケラ。→寄って、画面の端から端を満たして延々と流れ続ける無機質な艦の全貌の果てしなさ。目眩と耳鳴り。→艦内、ホテルのような内装に、寝台列車のような居住空間(ベッドに新幹線の座席背面のネットみたいの着いてる!)のリアリティ。全編、ボンヤリ眺めてるだけでうっとりするフェティッシュな北欧センスに痺れます。撮影もホントに美しい!特にミーマが見せるビジョン…。せせらぎ。渡り鳥たち。
劇伴も独特です。北欧独特の情緒を完全に抜き取ったようなリアルなクラブトラック。サバトシーンのテーマもブルータルで素晴らしい!じわじわ浸透してくるディストピア感に身震いしてしまいます!!無機質最高!よくぞこんな好みの作品を引き当てた!…と歓喜しつつも、劇中の台詞を借りれば「奇跡と偶然は同じもの」。…はぁい。

…どうですか?「観てみようかな?」ってなりましたか?難解SFだからって、他の何かと比べてみたりしない方が良いですよ。そんなことしてたら、観れる映画が各ジャンル一本ずつとかになっちゃいますからね…。
実は個人的に観てみて欲しいレビュアー様は何人かいらっしゃるのですが、…電波をキャッチしたら是非トライしてみていただきたいです。私はもう降参です。🏳亡骸は白旗がわりのシーツで包んで宇宙に放り出していただけると幸いであります…。