タスマニア

朝が来るのタスマニアのレビュー・感想・評価

朝が来る(2020年製作の映画)
3.5
2020年209本目。

このお話・展開を自分はどう受け止めれば良いのだろう。
いい意味で描く内容と力の入れるポイントが想像と違っていて驚いたわ。
もっとシンプルなお話に捉えていたけど、結構多面的でいろいろな見方ができる。
A面/B面のような二つのちょっと異なる物語が収束点にたどり着くまでのお話。

一番思ったことは「女性の涙のシーンがとても印象的な映画」だった。
永作博美然り、蒔田彩珠然り、山下リオ然り、ベビーバトンにいたもう一人の名前もわからない女の子然り。
女性が涙を流すシーンは背景の景色や光とともに、なんかすごく胸にくるシーンだった。
とりわけ、誕生日を祝われてボロボロ涙を流す女の子のシーンなんて、ドキュメンタリーかと思った。
「リアル」を知らないけど、「リアル」を感じる程度には20歳の女の子が歩いてきた茨の道やバックグラウンドに想いを馳せられた。

あとは、井浦新演じる清和が佐都子に養子縁組に対する自分の想いを丁寧に話すシーンの永作博美の涙なんて名演だと思った。

二人が大きな決断をするシーンを感動的に捉えるために、二人の不妊の苦しみや養子縁組にたどり着くまでのお話を丁寧に描いていることも凄く良かったと思う。

子供を授かれないと診断された後に、静かに涙を流す佐都子。
同僚に「子供を授かることは奇跡」と酒の場で話す清和。
新千歳空港行きのフライトを待つロビーで「二人で生きていくこと」を決めた二人。
旅先でベビーバトンのドキュメンタリーを見入ってしまった二人。
見終わった後の空気感含めて、凄く繊細で丁寧だったと思う。
うん、だからこそ清和のその後の佐都子に話した率直な気持ちが凄く刺さる。

あと、ベビーバトンの説明会の場面もめちゃくちゃ良かった。
参加者の表情や反応が非常にリアルで、これまたドキュメンタリーかと思った。もしかして、本当にそういった状況におかれた方々をキャスティングしたのかな。。。

このA面だけでも結構胸いっぱいになったけど、実はこの映画の主題はこのあとのB面だったんじゃないかと思うぐらい流れが変わった。

蒔田彩珠はすごいね。
大体こんな感じの影のある役だけど、顔が派手じゃないのになんか凄く奥行きがある女優さんだ。
「星の子」でも短い出演時間ですごく大事な時間を作っていた。

こちらパートは若すぎた母性の話とも言えるかもしれないけど
なんか「家族」や「居場所」の話にも感じたな。
考えられないぐらい好きになった恋人や、ベビーバトンで知り合った同じ境遇の女の子たち、なんだか居心地の悪い家族、そして、確かに残った母性。
お姉ちゃんが勉強できて優等生だったり、家族が比較を続けると自己肯定の居場所を他に求めてしまうのかな。
恋人の男の子側に避妊の責任が薄いとか、お互い危機管理ができていないとか、いろいろあるけど、やっぱり中学生だもんな。
危険な恋にのめり込むためのバックグラウンドが少なくともひかりサイドにはあったのだと思う。

ひかりの物語は最後の最後までとても危ういものだったな。
「広島のおかあちゃん」としてのアイデンティティが彼女の未来を照らしてくれるといいなって思う。
というか、佐都子が朝斗をひかりも引っくるめて愛してあげてほしいと思った。
自分が大好きなマンガ「めぞん一刻」の裕作が響子を "響子の中にいる惣一郎ごと" 愛すると宣言するあのシーンの感覚。凄く好き。

劇中で繰り返し使われた C&K の「アサトヒカリ」が最後に流れた時は、この映画のエンディングとしてこの上ない最高の曲だと思った。
というか、シンプルにいい曲だよね笑
早速 Apple ストアでダウンロードしたわ。

長尺の映画だったし、展開や雰囲気が結構変動する映画だったけど、心情の描き方が丁寧に感じたし、夕焼けの風景がめちゃくちゃ綺麗だったので、レイトショーで見る映画としては最高だった。
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