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ローリング・サンダー・レヴュー マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説のtjZeroのレビュー・感想・評価

3.7
ボブ・ディランが1970年代半ばから始めたコンサート・ツアーを追ったドキュメンタリー。

ディランに関してまったくのビギナーなので、140分超えの長尺を耐えられるかな~、と若干の不安もあったんだけど、マーティン・スコセッシ監督の当時の映像と現在のインタビューを巧みにコラージュした手腕にすっかり乗せられて、観終わる頃にはディランへの親近感が湧きまくり…になってしまった。

ツアーの開始は’75年。アメリカ建国200周年の年。
米国のルーツを見つめ直すような内容のツアー。タイトルの”ローリング・サンダー”とは、ネイティヴ・アメリカン(先住民族)が”祈祷師”を現わす言葉らしい。
ヴェトナム戦争後の分断した合衆国を、縫うように、つなぎ合わせるかのようにツアーは進んでいく。

ツアーのメンバーに詩人のアレン・ギンズバーグがいたり、スタッフに無名な頃のサム・シェパードがいたり、ゲストとしてジョニ・ミッチェルが歌ったり…と、多彩な個性が結集した巡業。
道化師のような白塗りのメイクをしたディランが座長を務める、サーカス団のよう。

この映画は、そうした個性豊かな面々によって成熟していく公演の模様を紹介するのがメイン(①)なんだけど、彼らから触発されたディランが当時社会問題だった冤罪で服役中のボクサーについての”ハリケーン”という曲を作り上げていく過程(②)が裏テーマのように描かれる。

クライマックスで、①と②の流れが結集するかのように、ステージでディランが”ハリケーン”を披露する場面は大きなインパクトがあり、感銘を呼ぶ。スコセッシの編集の腕にシビれる。

観てるこちらも、「あ~、デンゼル・ワシントン主演の『ザ・ハリケーン』っていう映画があったなあ。あれも観なきゃ」と刺激されたり、その黒人ボクサーのルービン・カーターがニュージャージー州のパターソン出身だと知って「『パターソン』って詩人が主人公の映画だったなあ。吟遊詩人のディランとの不思議なつながりも感じるなあ」とか、いろんな”エンタメ脳”を触発されまくってしまった。

さらに、他のかたのレビューを読んでみると、どうやら本作にはスコセッシがフェイク・ドキュメンタリーの手法を持ちこんだ部分がある、というではないか。
う~、この作品も再見せねばならぬ。スコセッシの作品を観ると、こうした刺激とか触発をたくさん受けとる気がする。だからやめられない。
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