踊る猫

アメリカン・ファクトリーの踊る猫のレビュー・感想・評価

アメリカン・ファクトリー(2019年製作の映画)
4.1
よく言えば多彩な声を盛り込み、多角的な角度から捉えられる切り口を備えたドキュメンタリーだと思う。悪く言えばその分なにを伝えたいのかわかりにくい。もう冷戦の時代は遠い昔のことで今では中国の企業がアメリカに次の拠点を求めるようになっている。その「次の拠点」となる工場で一体なにが起こっているのか(仕事ぶりや組合を作ること、等など)を描いたのがこの作品なのだけれど、やろうと思えば「上層部は巨悪」「従業員は貧しい」と一面的にセンセーショナリズムをむき出しにして描けるところを、この作品はそうしない。上層部には上層部にしか見えない光景があり、抱えている思いがある。むろんそれは下っ端の従業員にも言えるわけで、両者がスリリングに対立する瞬間を見せつつも両者が共存共栄しているのが会社という組織に他ならないことをあからさまにしている。リベラルが作ったドキュメンタリーのお手本という気もするが、しかしこの「多様性」はどこまでアクチュアルなのか。それとも、「事実」は紹介しますが「意見」はそれぞれが自由にお持ち下さいと姿勢から作られたドキュメンタリーなのだろうか。それはそれでひとつのスタンスではあると(イヤミではなく)思うのだけれど。
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