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Mank/マンクのTEPPEIのレビュー・感想・評価

Mank/マンク(2020年製作の映画)
4.5
Netflixと契約を結び、「ゴーン・ガール」以来、実に6年ぶりにメガホンを取ったデヴィッド・フィンチャー監督最新作が公開。映画ファンなら誰もが知る名作「市民ケーン」の脚本家で知られるハーマン・J・マンキーウィッツ(マンク)の伝記映画。あの名作がルーズベルト政権の下、戦争、大恐慌時代と、目まぐるしい世界のハリウッドの中でいかにして制作され、公開されたのか。公開までのトラブル含めて、何となく頭の片隅にあるだけで十分この映画は楽しめる。なぜ「市民ケーン」と、マンクは後に名作と言われるまでの完成度だったのに、ハリウッドに嫌われたのか。その裏では我々が知らない壮大なドラマがあった。

相変わらず100〜200テイクの撮影が当たり前で、当のゲイリー・オールドマンもさすがに困惑してしまったという、完璧主義兼ドSのデヴィッド・フィンチャーの真骨頂とでも言うべきか。「市民ケーン」と同じ手法の撮影にこだわった影の使い方や、モノクロ映像への愛は計り知れず、一切の隙を見せない演者たちの本気度とストーリーテリングは明らかにこれまでのフィンチャー作品とは違った面白さがある。
映画人たちへのラブレターとも取れる、''狂気のハリウッド''時代に生きる共産主義、貧困、映画会社の財政難、斡旋、生き残るか否かのスター達。

まさにトーキー、カラーフィルムの黄金時代。大衆は娯楽作品に飢えていた。MGMは1930年代、「芸術のための芸術」をモットーに大作映画を生産していった。
「オズの魔法使」、「風と共に去りぬ」だけでなくアニメーションでは「トムとジェリー」も産んだ、まさに30年代のスターシステムを確立した映画会社である。そのMGMで働くマンクの回想も含めて、物語は進行していく。

ゲイリー・オールドマンの圧倒的な演技力はフィンチャーとの相性は抜群で、鬼テイク数を乗り越えた主演俳優の恐るべき熱演ぶりは''あるシーン''でハイボルテージまで達する。これまたNetflix作品からオスカーノミニーの予感。女優マリオン・デイヴィスを演じたアマンダ・セイフライドはモノクロでも綺麗、むしろモノクロによって別のスター性が発揮されている。ちなみに彼女も鬼テイク数を乗り越えた1人。

この作品はフィンチャーの父親である、ジャック・フィンチャーの遺稿で、永らく日の目をみることがなかった脚本だった。
スタジオによる圧力や作品そのものへの改悪を嘲笑うかのように、今作もNetflix作品。この時点で皮肉が効いている。

なにせ、大手ハリウッドスタジオは、本作をモノクロ映画にすることに難色を示していたのだ。むしろもうクリエイターの気持ちを汲むスタジオはなく、問題はその気持ちを汲むプロデューサー達ぐらいしか貴重な存在がいないのではないかと疑ってしまうほどだ。

「アイリッシュマン」、「ROMA」、「マリッジ・ストーリー」、「シカゴ7裁判」とNetflixでは無いと作り得なかった作品群たち。「マンク」は映画人へのリスペクトと、警笛さえも鳴らしている。
スコア、脚本、演出、全てにおいてフィンチャー監督のこだわりが見える。

総評として、「マンク」はフィンチャー監督を巨匠の仲間入りにした作品と言っても過言でない。「ワールド・ウォーZ」の2作目を撮るかもしれないと言われた時は嘘やん…って思ってしまったが、やはりフィンチャーには伝えなければいけない事と、それを伝えるタイミングや時代が考慮されていて非常にこの映画には感動した。フィンチャー監督の新しい一面、それを存分に味わってほしい。
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