もものけ

ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

権力を持ってしまうと、見境がなくなり、いざ自分が立場になって気がつくのよねぇ〜……人間って。

とある帝国の国境の村。
夷狄の襲来から監視を続ける開拓地を統治する民政官は、穏やかな日々を送って過ごす。
ある日、帝国から派遣されてきたジョル大佐が訪れると、彼の平穏は崩されてゆくのだった…。


感想。
駄作オンパレードの配給会社 彩プロ!!
まれに見せる本気があるので、鑑賞せざるを得ない中、久しぶりにやってきた本気の中の本気!!
一言、素晴らしいです!!

しかしながら、相変わらずのポンコツぶりな配給会社のタイトルネーミングに、センスなぃなぁ〜とわかっていてもガッカリします。
ノーベル賞受賞作家J.Mクッツェーの「夷狄を待ちながら」の映画化なのに、何故か「帝国の黄昏」とネーミングするポンコツっぷりには、笑いすら覚えます(笑)
ポスターを赤々と燃え上がる色使いですが、内容は静かなドラマです。

架空の帝国が統治する植民地を舞台に、人間の愚かさを描いている作品で、とてものめり込んで鑑賞いたしました!

マーク・ライランス、ジョニー・デップ、ロバート・パティンソンの演技派俳優の演技は素晴らしく、さらに二人は脇役という豪華さ。
遊牧民の少女役のガナ・バヤルサイハンがアジア系の面立ちで演じる拷問された悲しい役柄を引けを取らずに魅せてくれてます。

映像もシーンごとのカットがアートのように美しく、自然光で撮影されたロウソクが灯る部屋のシーンなどは、絵画のようであり、大自然での風景のシーンは、雄大で素晴らしく撮影されています。
音楽もとても良いです。

架空の帝国としての物語ですが、個人的には英国の植民地支配への皮肉ともとれる作品にも見えました。

民政官は、年老いて余生を平穏な開拓地で終えようとしますが、あまりに酷いジョル大佐の暴力へ次第に帝国へ疑問を感じはじめ、終いには同胞から拷問を受け罵られてしまいます。
たった一人で遊牧民を助け、誰一人同胞からは助けられない民政官を見ると、社会でのコミュニティで起きるイジメの構図にも見えました。
酷いとは思っても、助ければ自分が今度はターゲットにされてしまうのを嫌がる心理を表現している感じがします。

この大佐が語る自白へのプロセスと、そのおぞましい暴力は、蛮族と罵る相手が震え上がるほどの蛮行で、どちらが蛮族か分からないほどです。

印象的だったのは、連行された遊牧民を村人までが棒で打ち据え、ハンマーを持ち出す大佐へ
「そんなもので、動物にすら使わない物を!」
と声高々に批判する民政官。
そして、腕を折られ引き回されゲラゲラと笑う民衆の中を吊るされるシーンが、監督がクリスチャンだからでしょうか?
聖書の物語のような、教訓めいたシーンに感じました。

このまま、地獄のような帝国支配で終わるかと思うと、ラストに将校が虐殺され、あっさり帝国軍は支配地域をそそくさと撤退します。
このあたりが、英国の植民地支配での出来事に非常に似ていました。

平和的な遊牧民たちを蛮族と呼び驚異として攻撃して迫害し、手に負えなくなる本当の驚異へ成長させ、恐怖して逃げる帝国の様は、権力を自らの力と勘違いする人間の愚かさを上手く表現しておりました。

ラストシーンの狼狽して民政官へ馬を探す兵士と、馬車で震えながら隠れる大佐のシーンは、まさに愚鈍な権力者の末路として、笑ってしまうくらい滑稽です。

しかし、個人的に思うのは、最も怖いのは民政官で、少女が拷問されるまで、何もしていなかったことです。
軍の命令として、疑問を感じながらも、彼は命令に従っており、ファシズムの集団心理への警告としてのメッセージが、少女が泣いていたり戻らない理由がそこにあるのではないでしょうか。
軍人たちも大佐の行動には、帝国としての信念を誰もが賞賛しており、疑問すら感じていません。

民政官が
「なぜ、あのようなことをした後で、食事ができるのですか」
との問いに将校が怒り狂いますが、疑問を感じても任務だから仕方ないと、恐ろしい拷問をやってのける人間性まで変える集団心理の怖さを感じてしまいます。

とても重い作品ですが、非常に考えさせられる素晴らしい作品に、5点を付けさせていただきました!!
もものけ

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