噛む力がまるでない

MONOS 猿と呼ばれし者たちの噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

MONOS 猿と呼ばれし者たち(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 第92回アカデミー賞国際長編映画賞のコロンビア代表に選出された、少年兵たちを描く戦争映画である。

 詳しい設定等は明示されず、彼らがどこかの国のゲリラ組織に所属する少年兵部隊ということぐらいしかわからないし、少年少女たちも全員あだ名で呼びあい、それぞれの背景が細かく伝えられたりもしない。コロンビア映画だから自国の内戦をそのまま描くわけではなく、観客に想像を促すフィクションの部分を残しながら、でも生々しく演出するというところでは近年でいうと『異端の鳥』との類似点がいろいろとあると思った。奇妙でファンタジーっぽくはあっても、大人が子供を狂わせてきた歴史を考えると、彼らに対する厳しい現実は確かにリアルであると突きつけられる。
 普段から機関銃をおもちゃみたいに撃つ気楽さとか、捕虜になっているアメリカ人との微妙な距離感とか、そういった構造をうまく使いながら傷つき崩壊していく少年たちの時間をとことん見せていくわけだが、ラストでは希望を見いだすような畳み方をしている。問いかけの意味もあり、ラジ・リの『レ・ミゼラブル』のラストで引用された(これも厳しい環境に置かれた子供を描いた映画だが)、「友よ、よく覚えておけ。悪い草も悪い人間もない。育てる者が悪いだけだ」という台詞を思い出した。

 個人的に、この映画はある種の組織論みたいなものを描いているようで興味深かった。統率が取れている時は士気も高くて和気あいあいとやっているし、部隊の中でカップルなんかも生まれたりしているのに、ちょっとしたことでパーツが欠けてバランスを崩すと一気にそれぞれの自意識が噴出していく描写にはなかなか侮れないものがある。「お前に言われたくないわ」みたいな反感とか、コミュニティ自体に対する疑問とか、まとまりがつかなくなって空中分解を起こしていく人間模様は、子供でなくとも戦争でなくとも実際によくあることだよなと思いながら見ていた。