mimitakoyaki

WAVES/ウェイブスのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
4.1
色鮮やかで洗練された美しい映像、少ないセリフでも心を繊細に描いている点で、同じA24の「フロリダ・プロジェクト」や「ムーンライト」、さらに同じバリー・ジェンキンス監督の「ビールストリートの恋人たち」と似た雰囲気がありました。

文武両道、イケメンで裕福で、スクールカーストの頂点に立つような高校生のタイラーの完璧だった青春が脆くも崩壊し、それによって家族も深く傷つき壊れそうになるのですが、それぞれが大きな痛みを抱えながらも、互いに慰め合い、自身の痛みや弱さも見つめながら、愛に支えられて立ち直って行く過程を描いたドラマです。

いやー、フロリダのアメリカ人に生まれなくて良かったですわ。
もちろん、みんながみんなそうじゃないけど、とにかくキラキラと華やかでパーティ三昧で、絵に描いたようなリア充ぶりですよ。
わたしも友達とわちゃわちゃするのは楽しいけど、パーティとか絶対ムリだし、常にカンペキでいないといけないとか誰からも注目されてるとかツラいわ。

どんなに裕福でも、あんな高校生活ちっとも羨ましく思わんかったですけどね、やっぱりタイラー自身もしんどかったんですよね。
親の期待も一身に背負って、レスリングでも活躍しないといけないし、常にプレッシャー感じてて、一見なに不自由なく幸せそうに見えるけど、肩の故障に怯え、鎮痛剤に依存し、彼女との関係でもひびが入り、一気に飽和状態に達して破裂してしまう様がとても怖かったし、もちろんタイラーがしてしまったことは取り返しがつかないし愚かなことなんですが、彼をそこまで追い詰める過程を見てると可哀想に思えます。

後半はタイラーの妹エイミーの物語になりますが、彼女が兄のことで学校でも全く居場所がなく、1人も友達もいなくて孤独なのが、見ていていたたまれなくて、すごく辛かったです。
あの学校に通い続けないといけないのはほんとに地獄だし、心を閉ざして生きていかないといけなくなったエイミーが痛々しくてたまらなかったけど、彼女の抱える事情を知った上で、友達になってくれ好意を寄せてくれるルークの存在がとてもあたたかくて、どれだけ救われたことか。

心ない言葉を浴びせ弱った人をさらに踏みつける人間はたくさんいるけど、偏見や決めつけではなく、その人自身を見つめて理解してくれる人がいるって、それだけで何とか生きていけそうに思えるのでしょう。
こんな自分でも受け入れて愛してくれる人がいるって、自分でいても良いんだって存在を優しく肯定され、その事が深く傷ついた心を少しずつ癒してくれる。

ルークもまた心に傷を抱えているからこそ、エイミーの痛みに寄り添ってくれたのかもしれないし、ルークの痛みを知り、それを乗り越えていくルークをそばで見つめる事で、エイミーも父親に対しての感情が変化していったりと、それが丁寧に描かれていたのが良かったです。

それまで成功者で強くて威厳のあった父親が、自分の過ちに気付き後悔して、初めてエイミーに心の内を見せた時、その心がちゃんとエイミーにも伝わり、互いに気持ちを吐き出すところがとても心に残りました。

あまりにも辛く厳しい現実にどうしていいかわからなくてぐちゃぐちゃになるけど、ちゃんと怒って悲しんで泣いて後悔する時間が必要で、その過程を経て先に進めるのかもしれません。
その苦しい時を分かち合える誰かがいたら、辛い日々の先にほんの少しずつ明かりが見えてくるのだろうと思えました。

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