はまたに

WAVES/ウェイブスのはまたにのレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
3.8
逮捕されたとき、タイラーの表情はくしゃくしゃに歪んでいた。

それがなんとなく、恋人アレックスの言う「あなたはいつも自分のことしか考えてないのよ!」を証明しているように思えてしまう。苦しみ悶え狂った先、自暴自棄がもたらす愚行の先にあるホールドアップは、彼にある種の解放を感じさせるのではないか。

なんて思ったんだけど、実際そこにあったのは茫然でも安堵でもなく、涙だった。あ、まだ彼の頭の中では「なんで」「どうして俺が」がうごめいているんだ。そう感じてしまった。
(とはいえ、この感想は的外れの可能性が高く、なぜなら日本人の感覚でアメリカ人の感情表現を断じちゃってるから。けど、個人の感想なんて「こまけぇこたぁいいんだよ!」なんでこれでいいんだよ!)

父親からの、信念が伴ってるだけにタチのわるい抑圧や、過大な期待に応えられないことを暗示する肩の診断結果、恋人からの妊娠の告白と口論。あるいは、人間性を損なわせるレスリング部のメンタルコントロール法や、処方箋なき鎮痛剤の摂取からくる心身へのよからぬ影響もあったかもしれない。そうした要素はもちろん同情に値するが、あの唐突なまでの無軌道っぷりに説得力を持たせるには足りなかった気がする。だって力まかせにぶん殴ってんだぜ!?(結局は酒か? 酒がわるいのか!?)

Netflixのドラマ「セックス・エデュケーション」でも水泳エリートのジャクソンが似たような境遇にあるけど、(妊娠させた相手がさらっと堕胎したって違いはあるけど)彼は彼を取り巻く抑圧について「ある程度恵まれているからこそ」出てくるものだと自覚している。だからこそ誰にも相談できない別の悩みもあるが、彼はこうまでプッツンしない。生来の性格が違うと言っちゃあそれまでだけど、物語であるならタイラーの生来の気質も含めて、因果は丁寧に描いてほしかった。

とまあ、作品の後半、妹主体の物語について言及する余裕もないくらい「おいちょっと待てよ」状態に陥っちゃったし、プレイリストムービーと称されるに値する美しいシーンと音楽の取り合わせにも「アニコレってインテリナードな白人以外も聴いてんの?」とかヤサグレるくらいになったんで、やっぱちゃんと「痛み」の源泉は描かないといけないよな、と思う次第なのでした。

とりあえず、おかーちゃん役が「オルタード・カーボン」シリーズのヒロインだってことに気づいて、「お前そのオトンより強いだろ」と思っちゃったことは内緒です。
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