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ストレンジ・アフェアのrayconteのレビュー・感想・評価

ストレンジ・アフェア(2019年製作の映画)
5.0
これは、ものすごい作品だ。
既存の劇構築術を一度解体して再構築したかのような奇妙な構造は、映画版ポストモダンとでも言うべきだろうか。
既存の映画的基礎構造とは全く異なる、一見ちぐはぐにすら思える繋ぎ合わせなのだが、単に既存のものを破壊しただけではなく、新しい文法として成立しており、すごい作品を観てしまったなと度肝を抜かれた。
まさにタイトル「STRANGE BUT TRUE」の名の通りの一作だ。

物語は、主人公(というか誰が主人公なのかよくわからないのだけど)フィリップの下に、五年前に事故死した兄の元恋人メリッサが臨月の状態で現れる所から始まる。
メリッサはお腹の子が、五年前に死んだ兄の子だと言う。
つまり、有り得ない状況である。
通常の映画であれば、このへんで作品の方向性を決めるフラグが立つ。
ミステリーになるのか、処女懐胎に端を発した神秘ホラーになるのか、あるいは新たな命によって再生する絆を描く家族ドラマになるのか。
ハリウッドの基本的な脚本メソッドでは、大体開始15分くらいで観客に作品の方向性を理解させる仕組みを作るようになっている。
どういう気持ちで観ればいいかわからない状況が長く続くと、観客が腰を据えられず、集中力が散漫になると考えられているからだ。
しかしながら、この作品はなかなか観る側にその方向性を決めさせてくれない。一体この映画の何に注視しておくべきなのかがまるでわからず、上記に挙げたどのジャンルにもシフトできるような、いわば宙ぶらりんの状態が後半まで続く。
そして予想もしなかった方向から物語の転換を促す弾丸が飛んできて、正直今まで何の話をしてたのかさっぱり忘れてしまうほどのアクロバットを見せる。
あまりに無理筋なので、着地はパワープレイになるタイプの映画なのかなと思いつつ観ていると、序盤から(というかそもそもの映画タイトルから)薄らと提示されていたテーマへと見事な着地を遂げる。
終わってみれば、この作品にジャンルはなかった。
子供の父親を巡るミステリーであり、宗教ホラーの要素も含み、さらには家族ドラマでもある。
ただ確かなのは、メリッサに子供が生まれ、フィリップたちが家族としてそれを受け入れたこと。そこには、過去に停滞していた人々の未来へと繋がる姿があった。
奇妙だが、それだけが真実なのだ。
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