アニマル泉

リチャード・ジュエルのアニマル泉のレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
4.5
90歳間近のイーストウッドが「フィルムノワールのように撮った」という最新作。実話の爆破事件を描くのだが、これはイーストウッドが描いた究極のホームドラマだ。ホームドラマとはいえ、母と息子二人の極限のホームドラマだ。イーストウッドは家族を描く時、崩壊している家族が多い。しかし本作はひたすら信じ合う母子を主軸にした見事なホームドラマとなっている。イーストウッドの役者への演出力が素晴らしい。ポール・ウォルター・ハウザーがとにかく圧巻!キャシー・ベイツがいい。イーストウッドは実在の場所で撮ることにこだわる。本作もアトランタの爆破現場のフェスティバルを本物の場所で再現した。実話を本物の現場で撮るのだから役者に神がかったパワーが出るのだと思う。善良な個人が国家権力に利用されて巻き込まれていくという主題は処女作「恐怖のメロディー」からの十八番。本作ではメディアスクラムと大衆の愚かさがさらに強調される。しかし真実が最後に暴露されるわけではない。容疑者の噂から魔女狩りにあう恐怖を描くが、不起訴で終わるので法廷劇になるのでもない。しかもFBIが何故起訴を断念したのかも描かれない。狙いはまさに究極のホームドラマをフィルムノワール風に撮ることなのだ。イーストウッドはセリフに頼らずにそれぞれの表情で魅せるのが上手い。母子喧嘩になりハウザーがママに謝る場面がとてもいい。居合わせる仲間の心配そうな無言の顔を重ねていくモンタージュは見事だ。イーストウッドは本作を「フィルムノワールのように撮る」ために白黒映画の照明方法で撮影したそうだ。本作は得意の移動するロードムービーではない。舞台はアトランタと主人公の家から動かない。だからフィルムノワールのように撮ろうとしたのだろう。窓のブラインド、密室と外、が本作では重要だ。
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