はる

野球少女のはるのレビュー・感想・評価

野球少女(2019年製作の映画)
4.3
韓国の高校でスポーツを続けることについての事情も知っていたので、主人公の立ち位置にはまず驚いた。
スインは笑わない主人公だ。野球のことを愛しているはずだが、おそらく高校に進学してからは楽しむ余裕も無かっただろう。作中に出てこない彼女の2年間強の苦悩があの「ロッカールーム」に詰まっていたようで、せつないショットだった。
彼女が叶えたい目標の過程ではいくつもの壁が立ちはだかっており、それを乗り越えるためには実力を認めさせることの前に、常識という名の偏見をまず取り払わなければならない。このもどかしさが今作では繰り返し描かれていたが、それをぶち割っていくスインの真っ直ぐな想いに感動してしまう。

幼なじみのジョンホと手を合わせて、気がつけば体格差が入れ変わっていったことを語り合うシーンはとても好きだが、あの優しそうなジョンホはそうなってしまったことを少し悲しく感じたかもしれない。ただし彼はずっと前を走っていたスインを追いかけることで高校まで野球を続けることになったし、認められたいという願望があったと思う。それが結果的にプロの目に止まるまでになったのだ。

そんな彼でも気付かないまま偏見を持っていたし、コーチのジンテも同様だが、スインの諦めない気持ちを認めて変わっていく。ナックルのくだりは予想どおりで、ちょうど「ナックル姫」としてかつてよくメディアに取り上げられていた吉田えりの最近までのエピソードを本人が話すのをTVで観ていたのはタイミングが良かった。
ちなみに吉田はナックルの握りにしたままテープでグルグル巻きにして寝ていたという、信じがたい話をしていた。つまるところ、彼女たちは努力を惜しまない人たちで、そうして周りを認めさせたのだ。

スインの母親の描写は悪い親のように見えるが、同時に彼女もまたそのような環境で育ったのかと思わせる。女性が働くことの難しさや生きづらさ。しかしそうした負の系譜も覆していくのがスインという存在で、急にド正論を言う父親ではない。

スインがあの野球部で与えられた環境のことを思えば、2軍とはいえプロ選手となった彼女の待遇もまたあやぶまれるが、彼女なら大丈夫だろうと思わせるイ・ジュヨンの瞳の力強さが印象的な作品だった。
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