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劇場版「鬼滅の刃」無限列車編のtetsuのレビュー・感想・評価

4.2
史上空前のブームにちゃっかり乗っかり、公開2日目に鑑賞。


[あらすじ]

人間を襲う凶悪な鬼たちと戦う先鋭部隊・鬼殺隊。
その一員として旅を続ける青年・炭治郎と仲間たちは、任務の一環として、炎を操る組織の幹部・煉獄杏寿郎を探すことになる。
彼が乗っているという無限列車を訪れた炭治郎たちだったが、そこは、夢を操る凶悪な鬼・魘夢が支配する恐ろしい巣窟だった……。


[感想]

TVで放送された総集編第一夜(『鬼滅の刃 兄妹の絆』)を観たものの、あまりハマらなかったため、その後のストーリーを追うこともなく、そのまま映画版へ。

かなり期待値は低かったけれど、意外や意外、映画版は単体でも楽しめるほどの傑作だった。

アメコミヒーロー映画的な人命救助アクションあり、「夢」映画としての魅力ありと、むしろ映画ファンこそ楽しめる内容。

それゆえに、シリーズそのものを、あまり知らない人にこそ、観てほしい安定の娯楽作だった。


[初心者歓迎のジャンプ映画クオリティ]

僕自身、幼少期は『月刊コロコロコミック』派で、結局、『週刊少年ジャンプ』は一度も買うことがなかったけれど、なぜか、ジャンプ原作の劇場版アニメは、ほぼ毎年、通っていたという事実。笑

その理由は、やはり、劇場版での単作としてのクオリティの高さだと思っている。

今作も、そんなジャンプ映画クオリティは健在。

多少、過去の内容を踏まえた部分はあるものの、キャラクター紹介的な前半や、ヴィジュアルで示される敵組織のシステムなど、初心者でも楽しめるように、最低限の演出には気を配られている印象を受けた。


[ヒットの要因]

本作がヒットした要因、そこには、大きく3つの理由があると思う。
(※あくまで個人の憶測です。参考程度に。)

それは、
①プロモーションの上手さ
②各種ストリーミングサービスでの配信
③圧倒的な若年層の支持
である。

①プロモーションの上手さは、タイアップ商品の多さとも言える。
作品の人気に火がついたことで雪だるま式に増えたタイアップ商品。これが結果として、作品に興味がなかった人たちを取り込んだのではないか。日常のあらゆる場面で主題歌や関連商品が売られていることで、サブリミナル効果的に刷り込まれるほか、町行く人々が会話の話題として出しやすい社会を作ったことは、本作の人気を加速させたように思う。

②各種ストリーミングサービスでの配信は、さらに拍車をかけるものだったと思う。
いまや生活リズムのひとつとも言えるストリーミングサービスで本作を鑑賞できたこと、それは、作品への敷居を下げ、より、映画館に足を運びやすい環境を作ったようにも思う。

③圧倒的な若年層の支持は、現在の日本映画界において、もっとも重要な要素といえると思う。
日本の人口そのものは少子高齢化の一途を辿っているし、映画館に通う一定数のシニア層も少なくはないが、やはり、そもそも映画館へ向かう母数が大きい若者層の影響力は計り知れない。
シネコンにおいて、少女漫画実写化やドラマの劇場版がヒットするのは、まさしくそれで、今回の映画も、間違いなく、ターゲットは若年層だと感じる。
ただ、配信主流の現在、年に数回映画を観る層の作品選びは、年々、慎重になっている傾向があるのではないか。
毎年恒例のブロックバスター映画『コナン』がなかった今年は、その層の多くが本作を選んでいるようにも感じた。


[無限列車編そのものの面白さ]

夢の中で戦う描写や、「そこからいかにして目覚めるか」という方法論は、さながらクリストファー・ノーラン監督の『インセプション』。

さらに、強きものを挫き、弱気を助ける主要人物の行動原理は、まさしくMARVELのヒーロー映画といえるもの。劇中での集団戦は『アベンジャーズ』に通ずる楽しさがあったし、主人公・炭治郎とゲストキャラ・煉獄さんの師弟関係には、アイアンマンとスパイダーマンの関係性が被る部分も多かった。
(本作の顛末にも、彼らとの共通点を感じざるを得ない。)


[もはや無限列車ではない終盤]

ただ、やはり、終盤の展開には、かなりしつこさを感じてしまった。

ジャンプアニメで、唯一、苦手な部分は、ひたすら続くアクションと、分かりきった展開を長々と引き伸ばす展開なのだが、本作のクライマックスには、そんな部分を感じてしまった。

キャラクターに思い入れが強ければ、号泣必須かもしれないので、これは単に予習不足だった自分の不備でもあるのだが、入り込めないシーンが長々と続けられると辛くなるため、今回の後半は、正直、かなりしんどかった。
(また、不幸な展開よりも、幸せのなかに多少の悲しみがある展開や、とびきり幸せな展開の方が、泣けるという個人的な好みも大きい。)


[おわりに]

前半における主人公の失った家族との邂逅、そこからの決意が素晴らしかっただけに、終盤の展開が何とも蛇足に感じてしまった本作。

ゲストキャラ・煉獄さんの物語として描く意図は分かるものの、やはり、シリーズの1エピソードとして、大きなクリフハンガー感が残るため、モヤモヤは拭えない。

そのため、個人的な評価は満点とは言えないが、今年の日本映画を代表する大ヒット作という点に関しては、かなり納得する作品だった。
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