もものけ

ジャッリカットゥ 牛の怒りのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

ジャングルの奥深くにある村では、ヒンドゥー教では神格化されている牛が屠殺され売りに出されている。
肉屋を経営するアントニは、キリスト教として入植してきた村人が、牛肉を求めることに応じて繁盛していたが、ある日結婚式用に屠殺する水牛を誤って逃してしまうことで、村は次第に狂乱の渦へ巻き込まれてゆくのだった…。








感想。
ズンチャズンチャと民族音楽のような軽快なリズムで始まるインド映画は、やっぱり歌うことが大好きなミュージカル仕立ての作品が好きなんだなぁというイメージですが、
"神は宇宙の全てを創造した。
それらを緩やかに並べ、それぞれに固有のリズムを与えた。
それは、ひとたび崩れると世界そのものを崩壊させる連鎖を生む原動力になる。"
という解説からこの全ての生物が持つリズムを表したシーンであることに、哲学的な啓蒙思想を訴えかけるような社会派な作品でした。

映像美が素晴らしくカメラワークのこだわりも半端ない作品で、夜のシーンなのに照明効果で鮮やかに演出された色が、SF映画の様相を呈しており、説明のないストーリー展開ながらも目まぐるしく変わるシーンに圧倒されてしまう、映像作品ともいえる珍しいインド映画です。

物語は単純で、逃げた水牛を追いかける人々が織りなす狂乱の世界。
これは集団心理の恐怖と、根底にある原始的で野蛮な人間性を描いております。
ただ水牛を追いかけるだけなのに、様々な思惑が飛び交い、主張を曲げずに声を荒げる男達を延々と追い続けながら、蚊帳の外となる女性の冷ややかさを背景に、世界で起きている覇権ゲームへの冷淡な皮肉を表現しており、戦争における男達のキチガイじみた行動までも風刺しております。

"黙示録"で始まりと終わりを締めくくるヒンドゥー教インドでは珍しい作品ですが、土着信仰であるキリスト教の村として牛肉を食べる文化や、人々の暮らしぶりを描いておりますが、神に挑戦するかのような傲慢さを表す"バベルの塔"のように折り重なって高くなる人間の肉の塔がラストに登場してきて、人間性においては宗教、法律、モラル全てが無意味であるかのようであり、その終焉の果てにあるのは"7人の天使"が吹くラッパが聴こえてゆきます。
この作品は無意味な争いを続ける原始的な人間への警告と罰として、"ハルマゲドン"が起きる村の寓話を描いているように感じました。

ラストシーンにある洞窟で原始的な狩猟をする生物が描かれており、根底にある原始的な野蛮さを持つ人間を風刺しているシーンにも見えますが、"ハルマゲドン"が終わり新たに神が創造した世界でもまた同じことを繰り返す人間の愚鈍さを表現していると思いました。

インド人監督でありながらスタイリッシュであり、珍しいキリスト教的感性で描いた狂乱の地獄絵図。
斬新な手法で撮影された映像美に、4点を付けさせていただきました!

内容は、なんてことない水牛との追いかけっこってだけなんですけどね。
ここまで壮大に含ませた哲学的な作品が凄いです。
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