幽斎

カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇の幽斎のレビュー・感想・評価

4.2
恒例のシリーズ時系列
1965年 4.0 DIE, MONSTER, DIE「襲い狂う呪い」独特なクリーチャーの古典ホラー
2010年 未見 The Color Out of Space「宇宙からの色」ドイツ映画
2019年 4.4 カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇- 本作

原作はLovecraft著「宇宙からの色」日本では「異次元の色彩」で知られ本作を観る前に「ラブクラフト傑作集」Kindle版を読んだが、分った事は映像化に不向きな事。隕石と共に訪れた「厄災」は可視化されず、人間には見えない。1965年版はDVD化されたので、興味の有る方は是非。ラヴクラフト原作の映画としては出色と高く評価されてる。「クトゥルフ神話」と聞いてワクワクする方は読まずにサッサと観るべし。

クトゥルフ生みの親Howard Phillips Lovecraftパルプ・フィクション。高級紙TIMEが「slick」紙質がスベスベの対義的にパルプと呼ばれる。クトゥルフはLovecraftが定義した架空の神話、彼以外にもホラー小説家Clark Ashton Smith、映画「サイコ」原作者でスリラー小説の第一人者Robert Bloch、「英雄コナン」シリーズで有名なファンタジー作家Robert Ervin Howard、彼らが其々で考えたフィクションを共有して神話化。太古の神話はクトゥルフから派生した、と定義される。

コミックを読んだクリエーターの代表格がStephen King。新世界三大鬱映画「ミスト」もクトゥルフがルーツ。Lovecraftは自らの小説をcosmic horrorと呼んだが、宇宙と言ってもエイリアンでは無く、無機質な広漠を意味し無重力で真暗な空間では、人間の容姿や経済力、価値観など虚無に等しい。底無しの孤独を宇宙と表現し、彼らの神話は今で言うオタクに近いセンテンス。更にはスター・システムの先駆けと言える。

主演Nicolas Cage、通称ニコケイ。日本では「仕事選べよ」と半ば馬鹿にする形容もされるが、彼ほど誠実に映画と向き合い、高い演技力で作品をステイブルする俳優も居ない。オスカー俳優なのにB級映画ばかり出てる=落魄れてる、と思うなら見当違いも甚だしい。彼ほど仕事が途切れる事無く出演してる俳優も珍しく、オスカーを獲った後は勘違いして鳴かず飛ばずでB級すらオファーの来ない俳優が圧倒的に多い。彼はスタッフ受けが良い事でも知られ、本作もオカルトと相性の良い俳優らしく、抜群のキレ味を披露してくれる。因みに「ミスト」も彼が主演する筈だったが、宗教感の違いで断った。

2021年2月16日、Cageの亡き父親の誕生日に5度目の結婚を31歳年下の女優「芝田璃子」26歳とラスベガスのウェスティンホテルで行った、雑誌「PEOPLE」を引用。彼は大の日本好きで私は見た事無いが、先輩に依ればパチンコのCMに出た事も有るらしい。20歳年下の韓国系アメリカ人と結婚。息子も生まれたが撮影から予定より早く戻ると、妻と愛人が一戦を交えてる最中、後に離婚。芝田璃子とは新作「Prisoners of the Ghostland」滋賀県を訪れた時に知り合う。彼女は私と同じ京都出身でNPOメンバーで面識の有る人が居たが「決算忠臣蔵」に出演した時も、クレジットに名前が無い程無名の人。今度は本物の日本人、京都人"笑"。

プロダクションで特徴的だったのは音楽「ヘレディタリー/継承」Colin Stetsonが、本作でも不穏で禍々しい旋律を奏でる。信者の方は直ぐに気付いたろうが、ダムで働く水文学者Ward Phillips、これにHoとLovecraftを足すとHoward Phillips Lovecraft。プロヴィデンス出身らしいが、それもラヴクラフトの生誕地。原作は視覚化が難しいと述べたが、それを可能にしたのがMagenta(マゼンタ)。皆さんのプリンターも、シアン、イエロー、ブラック、マゼンタのインクをお使いだと思うが、マゼンタだけ分光分布から除外された人口色。例えば自然界の「虹」にはマゼンタは存在しない。終盤で此の色が登場する意味は、もうお分かりですね。

本作はポルトガルとマレーシアの合作でアメリカが協力国。Richard Stanley監督が原作を基に脚本を書き、多くのスタジオを訪れたがメジャー・スタジオは誰も見向きもしなかった。それはラヴクラフト作品は映像化が難しく、全米ランキングを賑わせるには応分の製作費が必要だが、対価の回収も危うい。プロジェクトが頓挫するかに思えたが、ホラー映画に実績の有るSpectre Vision社が名乗りを上げる。Vision社がポルトガルとマレーシアのプロデューサーに持ち掛け、資金確保に成功。因みにVision社の創始者は「ロード・オブ・ザ・リング」Elijah Wood。彼もオープニングで名を連ねる。

Stanley監督は熱心なラヴクラフトのマニアと作品を見れば一目瞭然。長編劇映画は25年振りと為るが、グログロでグッチャグチャが3度の飯より好きな方は、観て損はない。映像化には不向きなコンテンツ、ラヴクラフトの世界感を申し分ないヴィジュアルで魅せる。興行的にも成功を収め、既に新章のプロジェクトも始動。監督のインタビューを見て得心したのは製作の過程。監督がラヴクラフト信者に成ったのは母親の影響。

母親がLovecraftが好きで、寝る前に読んで貰ったそうだ。後に映像クリエーターとして、この世界に飛び込んだ監督。それを後押しした母親。監督業と脚本で作品を残していたが、10年程前に母親が癌と分かり、拘束時間の長い監督から離れ、母親の看病中心の生活に為った。小さい頃に親しんだラヴクラフトを、今度は病院のベッドで監督が母親に読み聞かせた。母親はその後亡くなったが、それが25年振りに監督に復帰する契機と生る。母親は人類学者で自らの研究の為にアフリカに移り住んだ。人伝にこの話を耳にしたElijah Woodは製作を決断し資金集めに奔走。経緯を聞いたCageも出演を即決、母親への思いを巡らせると、彼の演技の意味もより深まる気がする。監督は2人のハリウッド・スターの期待に見事に応えた。きっと天国のお母さんも喜んでるに違いない。

小説の世界では熱烈なファンを「ラブクラフティアン」と言う。ホラーの神髄を是非味わって欲しい。
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