sugar708

グンダーマン 優しき裏切り者の歌のsugar708のレビュー・感想・評価

3.7
人間が抱える矛盾、葛藤、二面性、東西分断という複雑な環境の中でもがき苦しみながらも生き抜いた男の物語。

本作で印象的なのは、映画をはじめとする全てが「二面性」を持っている点でしょうか。

まず、映画の構成が過去と現在を錯綜している点。これが非常に複雑なのですが、彼は劇中で自身がどのような報告をしたのか覚えておらず、自らもシュタージであったことを公表するか葛藤する中で、書類や関係者に会い記憶に蓋をした目を背けたくなる現実を思い出していく過程、混乱という点では効果的な演出だったのかなと。

また、彼は炭鉱で働く労働者としての顔とアーティストという表現者という2つの顔を持っている。これが東ドイツの状況を多角的に映し出していて非常に良かったです。

彼はシュタージであり社会主義統一党の党員という一見すると良き東ドイツ国民に見えます。しかし、その反面で彼は炭鉱の労働環境等の改善を訴えた結果、党員資格を剥奪されてしまうというのは正に人間の矛盾、複雑さを表しているのかなと。

そして、東西ドイツという環境ですが、社会主義である東ドイツと資本主義である西ドイツ、結果的に社会を構成するこの2つの仕組みの社会実験になってしまったと言っても過言ではない東西分断の結果と現在も抱えている問題は教科書やニュースで語られている通りだと思います。

この映画はそんな世界や人間が抱える複雑な多面性を詰め込んだ作品でした。

友人や記者、バンドメンバーなどにシュタージであったことを告白し、自身の罪を認め反省しながらも最後まで謝罪を拒んだグンダーマン。

確かに彼が行ったことは言い逃れが出来ない罪でしょう。しかし、お互いがお互いを監視してる当時の国の状況や拒否した際の自分への影響を考えれば、彼の罪を責めることが出来る人は多くないと思います。

体制が変われば正義は変わるものですが、倫理や道徳という点からも考えさせられる映画でした。
sugar708

sugar708