てつこてつ

カサノバのてつこてつのレビュー・感想・評価

カサノバ(1976年製作の映画)
4.3
希代の性豪ジャコモ・カサノバの数奇な生涯をフェリーニ監督ならではの解釈で描かれた大作。

元々フェリーニ監督最盛期の作品群は好き嫌いが分かれる中で、特に本作は「サテリコン」「8 1/2」と並んで“問題作”と称されることも多いのだが、今回初めてDVDレンタルで初鑑賞となったが、個人的には、これぞフェリーニ監督!!といった作風で凄く好き。

冒頭のカサノバの生まれ故郷であるベニスを象徴するリアルト橋の絢爛豪華なセットから引き込まれた。おそらく「そして船は行く」同様に本作の全編がチネチッタスタジオに巨大なセットを組んで撮影されたと思われるが、序盤のカサノバが若い修道女に誘われて船を漕いで小島に向かうシーンもビニールを敷き詰め風で揺らすことで大海原を表現したりと、一つ一つのセットがとてもユニークかつ芸術的で美しい。

作品ではカサノバが故郷のベニスを出て、パロマ、ロンドン、ローマ、オスロ、プラハなどを周る“放蕩の旅”を描いているが、どのシーンのセットも素晴らしく凝っていて、かつ、フェリーニならではのデフォルメも効いているし、18世紀の貴族社会のコスチューム、特に女性の髪形などが素晴らしい。随所に登場する黄金の鳥が羽ばたく仕掛け時計のモチーフも印象的。

この主人公設定の為に、露骨な性描写が随所に登場するかと思いきや、そこはフェリーニ監督の美観にそぐわない物は描かれない。前述の尼僧とのベッドシーン(神と結婚する立場のカトリックの修道女が男を誘い込むという辺りも信心深い方々には問題視されているのだろう)も、二人とも着衣のまま、また様々なカサノバの性技を繰り出す描写も非常にコミカルで、製作された1976年に既に競技として存在していたのか定かではないが、アーティスティック・スイミングのプールに沈む際の女性の足技に酷似したスタイルで女性の歓喜を表現したりと斬新。

全編通して、テーマの割に実は性行為のシーン自体は少ないし、中盤の在ローマの英国大使の館で繰り広げられる性豪対決の描写も実にアッサリとした物。唯一、四人の女性とのorgyシーンでは一人の女性が胸を露わにし、カサノバの腰の振り方がリアルなので女性視聴者の方は苦手かもしれない。また絵画としてだがリアルな女性の陰部がどアップで登場するシーンもあり、この作品がかつて地上波でノーカット放送された事があったとは信じがたい。

フェリーニ作品ではある意味定番のキャラクターである、あえて言葉を選ばす書かせてもらうが屈強な大女、こびと、道化師、サーカス一団も登場する。

好きなシーンは沢山あるが、劇中劇のオペラ、深い霧に覆われた陰鬱なロンドンの描写、巨大な暖炉のセットを背景にカサノバが意中の女性に告白をする下り、そして、何と言っても、一流のパントマイマーが演じていると思われる機械仕掛けの等身大女性ロボット(下世話な言い方をすればダッチワイフ)と踊り、ベッドを共にするシーン。

カサノバ役が、他の監督作品ではアラン・ドロンのような生粋の二枚目俳優が選ばれるのに、あえてドナルド・サザーランドをキャスティングっていうのも実にフェリーニらしい。カサノバの実の弟が描いたとされる肖像画そのものの白塗りメイクに独特な髪形は、ドナルド・サザーランドの特徴でもある鼻の大きさを強調するようで、失礼ながらお世辞にも美男子には見えないが、性豪が必ずしも美男子ではあらず・・という実に理にかなったキャスティングで個人的には面白いと思った。台詞でも登場するが、鼻が大きい男性の性器も大きい傾向にあるという噂(事実?)は日本でも言われる事だが、下劣な表現になるが、ドナルド・サザーランドの顔立ちはある意味男性自身の象徴にも見えてしまうのは自分だけだろうか?

エンディングの晩年のカサノバが故郷のベニスに思いを馳せ、夢の中で、冒頭とは打って変わった寂れ果てて誰もいないリアルト橋に黄金の馬車が乗り付け、前述の等身大ロボットとダンスをするシーンの何とも言えない哀愁さと言ったら・・。人生という祭りの最後に待つ寂しさを絶妙に表現出来るのもフェリーニ監督ならでは。

2時間半の大作なので、ストーリーを追うのではなく、フェリーニ監督の世界観に自分の感性をどっぷり浸らせて鑑賞するのが正解。
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