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ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記のtetsuのレビュー・感想・評価

4.1
機会があり、鑑賞。

沖縄・那覇市にあるフリースクール・珊瑚舎スコーレ。
10才の子供から70歳を越える高齢者まで様々な世代の方が学ぶ学校に、ある日、15才の少女がやって来た。
彼女の名前は坂本菜の花さん。
本州から、とある理由でやってきた彼女は、沖縄の過去と今を知り、純粋な言葉で思いを綴っていく……。

ドキュメンタリー映画をあまり観たことがない人や、沖縄の問題について、あまり考える機会がなかった人にこそ、観てほしい傑作だった。

ここ最近、若者の劇映画でも多く描かれるようになった"沖縄の米軍基地問題"
(詳しくは、#映画の中の沖縄 から。)

しかし、それは、内地(本州)に住んでいる私たちにとっては、どうしても他人事として受け取ってしまう問題だったようには思う。
(事実、実生活に大きな影響があるのは沖縄県民だけであり、それは今回の東京都知事選の盛り上がりにも似たようなものを感じる……。)

本作が素晴らしかったのは、そんな部分を"沖縄にやってきた少女"という存在によって、県民以外の観客(=私たち)にも共感しやすい描き方になっていたところ。

さらに、作品そのものが描いているテーマも「互いの気持ちに寄り添うこと」であるため、観ていくうちに観客側も沖縄県民の立場にたって物事を考えるようになっている構造が秀逸だなと思った。
(ただ、ここには観たことで満足してしまい、実際、「私たちに出来ることは何なのだろう」とモヤモヤしてしまう歯痒さもある。)

SNSの普及により、各自が自分にとって都合の良い情報ばかりを獲得する傾向が高まった現代。
Black Lives Matter問題や、格差社会が様々な闘争を引き起こしている中で、本作を観ること。

歴史的な背景や生まれ育った環境、他者を理解することがいかに難しいかということは何となく分かっているけれど、それでも、まずは少しずつ、互いの理解を深めていくことが大切なのだろうなぁと、思わされる傑作ドキュメンタリーだった。

P.S
以前、大学の講義でTV版(『菜の花の沖縄日記』)を観ていたが、今回は1時間尺だったものが約2倍に増えていたのも驚きだった。

カットされていた箇所が大幅に追加され、後半4分の1に関しては新たな部分が描かれているので、ほぼ続編に近い印象。
(例えるなら、『シト新生』に使われていた映像をそのまま使用したエヴァ旧劇二部『Air/まごころを、君に』みたいな感じ。←例えが絶妙過ぎて、全く伝わらない。笑)

というわけで、今回は折角なので、TV版から追加されたシーンを以下にまとめておきます。
(若干、ネタバレの可能性あり。)

<TV版との違い>
・珊瑚舎スコーレの学生が作るミュージカル
・県民大会で演説をする翁長知事
・菜の花さんの過去や故郷についての描写
・沖縄独自の言葉について
・卒業後の菜の花さん
・新たな県知事選に揺れる沖縄
などなど。

その他、「夜空に浮かぶ月」を使った見事な映像表現や、沖縄の海を写した映像など、映画版に合わせて追加された美しいシーンの数々も、とても印象的だった。
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