けんたろう

バビロンのけんたろうのネタバレレビュー・内容・結末

バビロン(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

神様申し訳ありませんのマルハゲ監督が最高のおはなし。


享楽と栄光と凋落。

バビロンと云はれると、かの有名な『イントレランス』の一編を思ひ出す。然しいざ観てみれば、其れだけには決して留まらぬことが判明す。詰まるところ本作は『雨に唄えば』の裏返しの物語りである。要するに凋落。栄光と凋落。此処にチヤゼルの並々ならぬ映画への思ひが籠つてゐた。
滑稽なる描写に観客が笑ふ。至極当然のことである。然し彼れは其処で涙を流す。果たして此のセンセエシヨナルなる対比よ! 加へて其処から始まる強烈なる「映画」よ!

嗚呼、マヌエル。其の煌びやかなる世界、無限の可能性を秘めたる世界を、嘗て夢見た少年よ。
成るほど映画なんて、蓋を開けて見れあ、単なる大衆への見せ物である。無教養、非常識、品行下劣。其んな輩にも楽しんでもらへるエンタアテイメントである。
然しながら──否、だからこそなのかも知れない──キラキラ輝きたる彼の世界は、皆々に取りて、然うして彼れに取りて憧憬の的だつたんである。
嗚呼、夢見し産業に見事食ひ附けしも、彼の衝撃的なるシイクエンスにて、己れのしてきたことを側から見、一目散に逃亡、訣別を果たした青年よ!

怒涛。怒涛の最後である。
移ろうていつたものたちへの思ひ。愛したものたちの醜悪なる面。凡ゆる……凡ゆる感情、凡ゆる事件、凡ゆる側面。表も裏も悦びも哀しみも。畢竟、此処には総べてが在る。映画館には人生が在る。

『LA LA LAND』に似てゐるやうで、丸で違ふ映画譚。手放しの映画讃歌では勿論ない。だからこそ、チヤゼルの映画への思ひがビシビシ伝はる。

久々の映画館にして、久々の映画観賞。一寸個人的に来るものが有り。


因みに本作のマアゴツト・ロビイは、最早やハマり役どころの話しぢやない。冒頭にて魅せられた彼の輝き。彼れあ惚れちまふよ。しやうがない。加へて、彼の下品さも、サイレント期のハリウツド映画さながら。何んとも素晴らし。