鈴峰らんか

バビロンの鈴峰らんかのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.5
鑑賞に映画の歴史の知識が必要かも。周防正行監督『カツベン!』のときも感じたことだが、かつて無声映画というものがあったことを知らない人も増えているはず。
Wikipediaで古い映画について調べていると、たまに若くで死んだ・消えた俳優や監督のページに辿り着くことがある。その1スクロールで終わるあっさりした人生の解説が本当に全てなのか?と考えたことがある。本作はまさにそういった人達の人生・超拡大版。
時代の変革に着いてこられない人を振り落としながら、どんどんストーリーは進んでいく。それに要所要所で音楽が高揚感を与え、エンジンがかかったようにまた時代がうねる。
こうやっていろんな犠牲を払って、今日この日まで映画という文化があるんだなぁ。

汚物をぶちまけて始まるパーティーのシーンはとにかくすごい密度!音楽もぴったりハマってかっこいい!レディ・フェイ・ジューの妖艶なダンスを始め、この映画には何度もショーのような演出があって楽しい。
危険と誘惑が入り混じったアブナイ世界で、チャンスを掴みに来たネリーだけがやたら健康的なスターオーラを放っている。同じくチャンスを掴みに来たマニーは、ネリーと出逢って何かが始まる予感を覚えるが、この二人は初めから終わりまで同じ方向を見ていなかった。結ばれないとわかっている点ではラ・ラ・ランドより幾分マシかもしれない。

マニーとネリーのロマンチックなシーン、女同士の喧嘩をコミカルに描いたシーン、ジャックの苦悩を描いたシーン、マフィアから命からがら逃げるシーン、などなど、それぞれにぴったりの演出で、何本もの映画を紡いだ作品のよう。3時間の上映時間を長いと思わせなかった。(余談だが同日に『レジェンド&バタフライ』を観たのにどちらも面白かったので疲れなかった。おしりは痛いけど)
その中で、映画という発展途上の文化を作り上げるため奮闘する人々の描き方はひときわ熱気を孕んでいるように思えた。かつての東映京都撮影所は“歩いている人はいない。皆走っている”と言われたほど活気があり忙しかったそうだが、ハリウッドでもきっと同じだったのだろう。

マニーの回想から始まるラストシーンは、映画が与える影響を「体感」できる大きな仕掛けであり映画館が“装置”になる。
あれ?私も三原色でできている?私はフィクションだっけ?この映画の一部だっけ?どこに登場したっけ?今観てるのは映画?それとも目の前のこと?どっちだっけ?今どこにいるんだっけ?4DXでもないのに!映画の中に取り込まれる!映画の一部になる!!!とパニックを起こした。あれは一種の催眠導入みたいなものだろうか。サブリミナル映像??
もう一度体感したいが、次は正気を保てる自信がない。
鈴峰らんか

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