Joey

ブラックバード 家族が家族であるうちにのJoeyのレビュー・感想・評価

4.0
ポール・マッカートニーが書いた「ブラックバード」は、公民権運動に触発され、差別に苦しむ黒人女性にエールを贈るものだった。「傷付いた翼を広げ、飛び立つ瞬間を待っていたんだね」とアコスティックギターを手に語りかける。ホワイトアルバムに収録されているこの曲は、ポール自身も飛び立つことを示唆するかのように一人で演奏されている。そして、デイヴ・グロールがアカデミー賞のイン・メモリアルでこの曲を弾き語りで披露したように、いつしか故人を送る曲として使われるようになった。皆の翼は傷付いてボロボロなのだろう。

NHKの番組で「ヒユーマニエンス 40億年のたくらみ」という番組があって、毎週、興味深く視聴している。その番組で死とは何かを考察していた。人が生まれ続け、誰も死ななければ、この地球は定員オーバーになってしまう。だからと言って誰も生まれないようになると、寝たきり老人ばかりになって、人類は滅びるだろう。40億年かけて現在のホモサピエンまで進化した我々は、まだ進化が止まった訳ではない。だから、自分の遺伝子を子孫に残して、年老いた者から順に旅立たないと人類の進化はない。

この映画の主人公も翼をボロボロにして旅立とうとしている。そして、家族に残したものは貴重なものばかりだと思う。もちろん、見たくない物も沢山ある。それもひっくるめて全てが人生であり、その一つ一つが愛おしい。こうやって、人は前に進んでゆく。綺麗で楽しいことばかりではない。天命を全うすることは後退なんかじゃない。進化する過程なんだと実感できる。

進筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病は、そういった自然の摂理に反する行為を求めているのだと思う。寿命を全うしたい人達に無理矢理、管を付けて、拷問のように延命処置を続ける。医学の進歩は人類の進化の妨げになってはならない。延命が医学だとも思わない。もし、そのような病に冒されたならば、自分も旅立つ機会を逸しないようにしたい。
Joey

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