Oto

Curve(原題)のOtoのレビュー・感想・評価

Curve(原題)(2016年製作の映画)
3.6
「この短編がすごい...!」のツイートに21万のいいねがついていた。これだけ極限まで要素を排除した映像作品がよくこれだけ広がったなぁと不思議な気持ちで見終えた。
https://vimeo.com/221821296

プロットを整理すると...
・波の風景と眠っている身体部位の寄り
・起きて絶望的な状況に気がつく
・音も聴こえ始めてタイトル
・登ることを試みるが片足が不自由で失敗
・手が出血、痛みを堪えて服で拭き、息をかける
・再度登るが、ほとんど進めない
・向いの壁に落ちた他人の血痕を発見
・血痕が増えているような幻覚と叫びの幻聴
・雨が降り始めて絶望し発狂
・ネックレスの摩擦で防ぐが、耐えられず不在

意外と出来事は豊富にあるし、音の表現も豊かだし、本人の緊張感を擬似体験させるような主観的な映像になっているので、なるほどこれはたしかに家やスマホでもアトラクション的に楽しめる新しいものだなぁと思った。

SAWやCUBEもだけど、不条理なパニックホラーって、背景を全く明かさずに、ただただ置かれた状況での心理を観客に追体験させるものになっているけど、10分間をここまで潔く使うってなかなかできることじゃないなと思う。

普通は、車が事故に遭って...とか、子供を助けようとして...みたいなきっかけから描いてしまうような気がするけど、なにも観客に共有しないで始めているのが味噌だと感じた。

なにもわからない状況が恐怖を増幅するし、最後にわかるんだろうという期待が集中力を持続させるし(その分拍子抜けするのもあるけど)、解釈の余地を残しているところにSNSを含めた観客への広がりを作っているのだと思った。

「主人公には根源的な欲求が必要」と脚本術で言われる中でも、「生きたい!」というのは最もわかりやすくて強い欲なので、万人が共有しやすい感情出し、

おそらく子宮を模しているであろうロケーションにも、流産なのか中絶なのか、何かのメタファーであると推測してしまうのが自然だし、そんなことを考えなくても楽しめる優しさも兼ね備えているし、メタにみると「いやどうやって撮ってるの?」みたいなこともいろいろ考えられる。

暗闇に落ちるか落ちないか、コーンフレークかコーンフレークじゃないか、マクベスが解散するかしないのか、人は保留された決断や判定に魅力を感じるんだろうと思う。そんな本能的なアイデアが2016までなかったのも不思議に感じるくらい原始的な作品だと感じた。現代だとどうなるんだろうと考えると『Search』や『Run』みたいな発想に行き着くのかもしれない。


インタビューで一番驚いたのは、「iPhoneカメラと、小さな人形、スチレンで作ったセットだけで、映画全体を実験的に撮って、ショットとアングルを完全に検証してから撮影に臨んだ」ということ。クリエイティビティって他人には真似できないような狂気から生まれているよな〜って『おばけ』や寺西涼さんの短編をみたときと同じように思った。なぜそんなことに踏み切れるのかが知りたい...。

他にも...
・交通事故で死にそうになった経験をもとに作ったそう。自分がみたいと思う作品であることを意識して作った。
・撮影はセット。サウンドデザインとセットデザインをしてくれる人がいたことが成功要因だと。
・はじめは犬の鎖を持っている設定だったらしいけど、「犬はどうなったの?」みたいなノイズが生まれないように全てを排除したとのこと。"Less is More."
・夏のメルボルンで雨も降らされる中で、言葉を使わず身体だけで苦しみを伝えるという芝居。オーディションを進め、俳優の友人から勧められた女優で決定。
・ポリスチレン、人形、iPhoneで映画全体を実験的に撮影して、ショット・アングルを検証しきった上で撮影に臨んだとのこと。
・反対側の壁はCG。食肉処理場のような映像づくりで、何度も見直してもらえることを目指した。
・サウンドデザインは、地下の音、排水の音、引っ掻き音など様々なものを録音したが、最終的には知性のある生き物や機械が発する音に落ち着いた。
・映画を作るときには、何年も費やすことをいとわないと感じるようなもののを見つける必要がある。自分を完全に消費されてもいいと感じるようなもの。
*https://screenanarchy.com/2017/06/interview-tim-egan-discusses-the-inspirations-and-craft-of-curve.html
Oto

Oto