耶馬英彦

プロミシング・ヤング・ウーマンの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

4.0
 映画やドラマをたくさん観たり、小説をたくさん読んだりすると、物語に慣れてくる。そしてストーリーがある程度読めるようになる。すると次はこうなるのかなと、展開を予測しながら観たり読んだりする。それが割とよく当たる。水戸黄門みたいな予定調和のストーリーはほぼ100パーセント当たる。当たると気分がいい。水戸黄門やドクターXが根強い人気なのはそのためだ。行きつけの店の定番メニューみたいに期待を裏切らない。
 ところが本作品のストーリーは、当方の予測が悉く外れた。違和感がいっぱいで胸がモヤモヤする。それはとてもいいことだと思う。水戸黄門を観ても、あとに何も残らないが、本作品は鑑賞後に引きずるものがある。疑問はたくさん残るし、細部がよくわからなかったシーンも結構ある。すべて製作側の意図だと思う。なかなか凝った作品だ。
 しかし主人公キャシーの動機が少し弱い気がした。そこまでやるほどの友情がこの世にあるのかと疑ってしまう。ただ、同じ疑問を登場人物も持っていて、キャシーに忠告したりするところが面白い。どこまでも人を食った作品なのだ。
 そしてキャシー自身も医大中退以降の10年間に別れを告げて新しい一歩を踏み出すかに見えたのだが、本作品は主人公に冷たい作品で、キャシーを苦悩に追いやる。そこから先の展開が破天荒で、当方には予測どころか、想像すらできなかった。
 あるシーンでは、昨年5月に警官に膝で首を圧迫されて死んだジョージ・フロイドの事件を思い出してしまった。理不尽な死だ。本作品でも理不尽な死がテーマのひとつになっている。無法者に対する怒りと、理不尽な死を遂げる悲しみ。怒りと悲しみの両輪がキャシーの行動の源になっている。
 必要なシーンが上手にバランスよく鏤められているから、すべてのシーンを見逃さないように刮目して鑑賞することをおすすめする。それぞれのシーンが無意識の中に残って、いつかそれらが昇華されて新しい物の見方をひとつ増やせるかもしれない。
耶馬英彦

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