ぐち

ナショナル・シアター・ライヴ 2020 「リーマン・トリロジー」のぐちのレビュー・感想・評価

3.5
アメリカの産業が綿花から金、やがて「情報」へと移り変わる歴史と、リーマン一家の世代交代の歴史が自然に重ね合わされた秀逸な脚本。古きを駆逐し新しきへ進む、その「新しさ」もやがて次の世代に駆逐される哀切の表現がすごく上手い。
歌うように演じられるセリフの詩的さとテンポも良かった。

背景のスクリーンの情景が変わることで場所が変わっていることを表現していたが、ニューヨークに舞台が固定されてからは徐々に高層ビルが近づいてきていて、それはリーマン一家がアラバマから進出してきた新興企業からニューヨーク中枢に食い込み馴染んでいくようでもあるし、マンハッタンに飲み込まれていくようにも見える。

オフィスのセットと書類ボックスのみで表現される様々な場所、3人の役者のみで表現される老若男女様々な人物。
舞台と舞台役者は、木の板一枚の上で布一枚を纏って世界中あらゆるものを表現できるんだと圧倒された。舞台芸術の強みをこれでもかと見せつけてくる。
3人の役者の中でくるくる入れ替わる人物も、あんなに激しく頻繁に入れ替わっているのに同じ役者がずっと同じ役を演じるのは変わらない。世代交代の順番とその場にいる役柄の配置、役が入れ替わるタイミングが複雑ながらも非常によく計算されていた。そして計算され尽くしていることを悟られないような無造作感。すごい。

リーマンブラザーズの看板が何度変わっても、アクリル板に書かれた文字がずっと残っていくのも印象的。
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