Oto

ミナリのOtoのレビュー・感想・評価

ミナリ(2020年製作の映画)
4.0
Filmarks試写会にて。『パラサイト』に続いてゴールデングローブで外国語映画賞を獲って、アカデミー賞候補とも言われる作品。

「農家としての成功を夢見て渡米して韓国人一家の物語」なんだけど、異国での差別と闘って認めてもらう話ではなく、むしろ自分たちが異物ばかりの世界を受け入れていく話として描かれているのがすごく良かった。
イチローが引退会見で「自分が“外国人”になって孤独を感じたことで、人の痛みを想像できるようになった」と語っていたけれど、テーマはそれに近いのだと思う。

"自主映画の最高峰"と言えるような映画だと思うけど、最もテイストが近いと感じたのは『僕はイエス様が嫌い』で、子供と祖母を中心として、ユーモア混じりに「信仰」について描く映画。アーカンソーの田舎が舞台なので引き絵の長回しでも絵が持つというのも共通点。
自分もアーミッシュが住むような厳格なキリスト教の田舎の地域に留学してカルチャーショックを受けたことがあるけれど、その地域における新参者のリアルな感情を救い取りつつ、観客が飽きないエンタメとして構成されているのが見事。

Twitterで「リアル病」(正しいけど面白くないものの多さ)が話題になっていたけど、最近観た某邦画で「このシーンは観客に見せるにはあまりにも退屈すぎやしないか?実際の人物が行動するとそうするのがリアルだと思うけど、2時間の使い方としてもっと観客を楽しませる選択肢があるんじゃないか?それを見せたいのってただの監督のエゴじゃないの?」と思ったことがあった。本作も一見地味と思われるような映画なんだけど、映画ならではの表現の工夫が散りばめられていてずっと楽しい。
特にカット尻の潔さは見習うべきで、このシーンは長くなりそうだな〜というのを裏切ってバッサリ切ってきたりする(叱られるシーンなど)。終盤に関してもクライマックスのまま終わったような印象で、必要以上を描こうとしないのが美しい。

タイトルの『ミナリ』はセリのような植物のことだけど、このようなモチーフを反復して回収する脚本も見事(ひよこ、花札、野焼き、おねしょ...)。芝居の演出もピカイチで、おばあちゃんと孫のコントはずっと笑いながら見ていられるし、序盤から些細なシーン一つをとっても「両親の喧嘩を紙飛行機を投げて止めさせる」とかエモーショナルで個性的な出来事が続く。

役者も素晴らしい。子役も芝居をしているようには見えないし、おばあちゃんはミッドポイントを経て全く別人のように変わる。『バーニング』と同じく燃えている家が似合う俳優だな〜とも思った。
セリフも、「雄は役立たずだからダメ」とか「隠れている方が危険で怖い」とか示唆に富んだものものばかりだし、かと思ったらおばあちゃんお「Broken ding dong」や花札の口の悪さで笑わせたり、子供の「おばあちゃんらしくない」「韓国臭い」「おばあちゃんは何ができる?」でハッとさせたり、本当に芸が細かい。誰が言うと響くセリフかと言うのが考え尽くされている。

信仰の描き方で印象に残ったのは、何の説明もなかったのに、子供に憑いていた悪いものがおばあちゃんに乗り移ったということが、棚での出来事を通してわかったこと。2つの場所を音でつなぐ編集とかも有効だった。
それに、雑魚寝している家族を見守る祖母とか、水流を探してもらう父とか、セリフのない絵だけで、変化を明確に伝えるのとかめちゃ憧れる。
『すばらしき世界』や『花束〜』でもそうだったけど、二人の心が近づくシーンとしてお風呂(裸の付き合い)が使われるのは万国共通なんだな〜とか発見もあった。

メッセージとして受け取ったのは、「邪魔者」や「危険」と見直して制限したり排除しているものこそが、自分達を助けてくれるかも知れなくて、なにが役に立つのかなんてわからないから試して受け入れるべきだし、理解してもらえないと嘆く前に、自分が相手を理解することから始めようということ。

いい映画を見たと純粋に思える作品ですごくおすすめ。細かいプロット分析はネタバレにあげておく。
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