Oto

パーム・スプリングスのOtoのレビュー・感想・評価

パーム・スプリングス(2020年製作の映画)
4.0
ループ系のラブコメと聞くと『恋はデジャヴ』『アバウトタイム』とか傑作が多い一方で、この王道のジャンルもので新しいものが作れるのか疑問だったけどちゃんと新鮮。

2人が同時にループにハマるのも新しいし、その開始のタイミングにズレがあることで、対等でない関係が生まれるというのが新しい。並行世界が存在しない設定に混乱するシーンが何度かあった(ループ開始前の彼女と会っている、ラストのロイとの再会など)けど、逆に言うとそれが新しさになっている。

サラの視点は観客に近くて、「ループの先輩」であるナイルズから掟を学ぶと同時に、その裏側に隠された真相(ナイルズの諦念と過去、ロイとの争い、ループからの脱出)を明かしていくというミッション。
一方のサラにもだらしない秘密があるというアメリカンコメディらしい面白さ。ファーストシーンからSEXだったけど、邦画だとしたらこんなにカラッと描けないと思うし、日本人作家には消化しきれない題材だったと思う。

演出が見事で、「ループを繰り返している男」の描写が序盤から新しい。ダンスしながらのアプローチでは他の客の位置を完璧に把握していたり、彼女の浮気をネタにしていたり、ありそうでなかった新しいシーンが多い。ミルクボーイのコーンフレークのような知的な笑い。

お楽しみパートの、ケーキに爆弾が入っているだとか、彼女の台詞を丸々復唱できるだとかも、見たことなかったし、ウェットになりそうなシーンでもしっかりふざけるのが良い(あんたの息子だ!とか)。ラストも怒られて時制が発覚したり、「何飲ましたの?」とか第三者の反応も面白い。あれ、もしかしてあのおばあちゃんも?みたいな遊びもあるし。

監督デビュー作、しかも学生時代に書いた脚本のアレンジと聞いて驚いたけど、繰り返しのモチーフが上手いというのはこの手の作品の条件だなぁと思った。香水、スピーチ、恐竜、プール…。結婚式という派手な日を選んだり、特殊なロケーションにしているのとかも効いている。繰り返しを複雑にせず端的に短時間で伝える工夫がされている。

量子力学とかヤギの実験みたいなパートは様式美としてディテールを説明するようなことはせず、映画ファンの皆さんなら分かりますよねーってな感じで、一つ一つの笑いも感動も引っ張りすぎずにあっさりとテンポよく量で勝負してる感じに快感を覚える。

役者もハマってて、主演の彼はめちゃくちゃコメディ俳優の顔で、アダムサンドラーとよく似てる。ヒロインも目が大きくて覚えやすいし、脇を固める名優もさすが。過去に誰とやったかの回想とか特にウケてたなー。

前半はループにはまっていないぼくらも結局同じだよねーみんな過去に囚われて寂しく生きてるよねーと思いながら観ていたけど、後半はむしろ夫婦論を学んでいるつもりで観ていた。お互いにうんざりしてるのはもはやアドバンテージで、相手には期待しすぎずに、一人でもいいけど一緒にいると少しだけ退屈じゃないし退屈にさせない、くらいが最高なのかもしれない。

社会派映画ばかり観て疲れたーという人とかにすごくいいと思う。M-1のニューヨークに近い笑いというか、本能に従ったまま行動する人間の潔さに笑ってしまう。
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