噛む力がまるでない

パーム・スプリングスの噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

パーム・スプリングス(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 捻りのある設定でタイムループもののジャンルに新鮮な風を送り込んでいて、それでいてロマコメの軌道が敷かれているので安心のできる楽しい映画になっている。

 この手のジャンルでいうと最近では『ハッピー・デス・デイ』シリーズが挙げられるが(サラが量子力学の知識をループで蓄積していくのは明らかに影響を受けていると思われる)、この映画にもロイという変わった殺人者がいる。同じタイムループに巻き込まれ、はるばるアーバインからたまにやってきてはあれやこれやとナイルズを追い詰めるのはなかなか愉快なところだ。そんな敵だった彼が最終的にナイルズのメンターとして変化するところがなんだか『羊たちの沈黙』をひっくり返したような感じがあり、物語のポイントで登場しては転換を作るロイの存在がこの映画の面白さを結構引き出していると思う。ラストではどうやら彼はループから抜け出していないようだったので、今後も同じような状況に陥った若者にアドバイスする役割を担うシリーズがあれば楽しそうである。

 一点ちょっと思ったのは、ループを抜け出したいと主張するサラがナイルズに「元の世界でも私を選んでた?」と聞くのが吊り橋理論を否定するような台詞だったことだ。文字通り何度も繰り返されてきた古典的な効果を壊しにかかる気なのか?と自己言及的で責めた演出だと期待したのだが、ロマコメなので当然そんなことはなく、二人が無事にハッピーエンドを迎えたのはホッとしたようなガッカリしたような気持ちだった。あと、ナイルズがループを繰り返しすぎて記憶があやふやになったということは精神的にかなり年老いているはずで、ラストですんなり記憶が戻ってしまうと人格に破綻が起こりそうでここばかりは設定に問題があるように思った。