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椿の庭のmakoのレビュー・感想・評価

椿の庭(2020年製作の映画)
3.8
《「生と記憶」の物語》

舞台は、葉山の海を見下ろす坂の上の古民家を移築した一軒家。
夫を亡くした絹子(富司純子)と孫娘の渚(沈 恩敬 シム・ウンギョン)が暮らしている。

この家の庭には四季折々の花が咲き、樹木が生い茂る。
手の行き届いた庭は清々しく、古民家は広く快適そうだった。
祖母と孫娘の生活は穏やかで二人がこの家が好きなことが伝わる。

冒頭数分間、台詞はなく、聴こえるのは風が揺らす木々の葉の音、鳥のさえずりなど。

夫の死去に伴い相続税の問題で家を手放すことを税理士から求められた絹子。
手放すまでの10ヶ月、春〜梅雨〜盛夏〜秋、冬と移ろう日々を描いている。
庭の花や虫、食べ物などで四季が分かる。

冒頭から金魚の死、絹子の夫の四十九日の法要、蜂の死骸と死の描写があり、何かを予感させる。

終盤のあるシーンでなんて残酷なんだろうと思った。でもこれが現実なんだろうと思った。
手紙の文面で泣けました。

渚が着てる服、絹子の着物、家の家具などもよかった。
劇中、絹子の思い出の曲としてかかった「Try to remember」が印象に残った。

監督は上田義彦。サントリー、資生堂、TOYOTAなど数多くの広告を手掛け、国内外で高い評価を得ている写真界の巨匠。恥ずかしながら私は知りませんでした。
本作は、上田監督が構想から十五年の歳月をかけた渾身の一作。
なるほど、どおりで映像が美麗で構図も素晴らしいと思った。
実際に一年かけて春夏秋冬を撮ったそうです。

映像や音響、俳優陣はよかった。
特に富司純子さんとシム・ウンギョンさんの演技はとてもよかった。
静かな映画で、何か特別なことが起こることはないので好みは分かれると思います。
台詞が少ないので、途中眠くなりましたがどうにか眠らずに鑑賞しました。

個人的に雰囲気など好みですが、物語としてはもう少し何かほしいと思いました。
あと、税理士役で張 震(チャン・チェン)が出演していましたが、なぜこの役なのか分かりませんでした。日本人でもよさそうな役なのに、この人じゃなきゃいけない理由が分からなくて。ここが少し引っかかりました。一緒に観た友人も同じことを言ってました。

静かな映画ですが、これはテレビなどで観るより映画館向きだと思いました。
テレビだとこの映画の良さはあまり伝わらないかも。


観客 1階席 ?、2階席 3人
劇場鑑賞 #55
2021 #67
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