パケ猫パケたん

キネマの神様のパケ猫パケたんのネタバレレビュー・内容・結末

キネマの神様(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

松竹映画100周年記念作品。
松竹大船撮影所の全盛期と、現代を対比して描くファンタジー的な作品。この手の映画は甘口になるが、今回は美味で巧くまとまっていたと思う。流石、山田洋次監督。

北川景子が出ているので、観るのをやや躊躇していた(彼女で失敗したかのような、映画も多いから。)が、今回は素晴らしかった。美しい。サングラスとカチューシャが似合ういい女。彼女は、現代の活発な女性を演じさせると、イヤな面が出るので、内面も淑やかな昔の女性を演じさせるといいのかも知れない。流石、巨匠の着眼点。確かに、原節子並みの美貌がある。

永野芽郁も昭和の溌剌(はつらつ)とした、女性を演じていて、似合っており魅力的だった。宮本信子も、繊細に苦労人を演じており巧い。広岡由里子も杉村春子的に演じていて、小津安二郎の映画みたいで、可笑しかった。更に、寺島しのぶは、面接の時に、運動靴からハイヒールに履き替えるシーンは、切実にして仄かにエロく、山田演出がここでも光る。

菅田将暉、小林稔侍も普段よりも魅力的であり、清水宏監督をモデルにした役の、リリー・フランキーはダンディ。沢田研二は志村けんに似せて来る演技が、凄くて、達者だった、そして「東村山音頭」の歌声に痺れたよ、ジュリ~(^.^)

北川景子の瞳の中の影から、追想のカラー画面が始まるのは、優れて映画的で目眩がした。

また、その追想のカラー画面が、黄色味を帯びていて口紅の赤が強調されるフィルムであったり、色彩が豊かな今日のデジタルであったり、様々で実験的である。

小津安二郎監督の姿が写らないのは、山田洋次監督本人が、描くことすら、畏れ多いとの尊敬の念の表明なのかも知れない。

また、映画の中の『東京物語』の登場人物たちは、ほとんどが逝去しており、北川景子もまたそれであり、だからこそ静かで美しく、沢田研二もまたもれなく戻って行ったのであろう。ファンタジーの世界に。記憶装置の中に。それは、黒澤明の『まあだだよ』(1993)のラストの夕雲にも似た、童心のようなものを感じた。

あとは、溝口健二周り。沢田研二演ずる所のゴウが、あまりにも能天気で、長期間働いていない様子で、宮本信子の気苦労が心配で、溝口健二の映画のような哀しみもあっただろうなぁ、彼女。

コロナ禍とどう向き合うのか、立ち向かうのか、その辺りの表明がなかったので、『家族』(1970)、『学校』(1993)などの日本における、最上の社会派映画監督のひとりでもある、山田作品としては、やや物足りなかったかも。しかし、役者が素晴らしく輝いている事は、確かである、山田監督らしい優しい視線のある映画だった。