一

コレクティブ 国家の嘘の一のレビュー・感想・評価

コレクティブ 国家の嘘(2019年製作の映画)
3.8
今年のアカデミー賞で国際長編映画賞と長編ドキュメンタリー賞にWノミネートされたドキュメンタリー

ルーマニアを震撼させた巨大医療汚職事件を題材に、市民、ジャーナリスト、政治家ら異なる立場から事件に立ち向かう人々の姿を捉える

もはやルーマニアという国に限らず、世界中のあらゆる国が今まさに直面する医療と政治、ジャーナリズムが抱える問題に真っ向から迫り、容赦なく問題点を浮き上がらせるという、これぞジャーナリズム精神という凄まじいドキュメンタリーを観た

巨悪の不正を暴く痛快さがありながら、絶望感の方が上回ってしまうという血も涙もない苦しい実態は、遠く離れた異国の巨大汚職事件だけど、全く他人事とは思えないし、こういう記者会見を開いてる上にしっかり追求する記者がいるだけで、幾分かマシだとすら思ってしまうから恐ろしい…

なんとなくミートホープ事件を思い出したけど、そんな酷い偽装の遥かに上をいき、金のために命を軽視した医療の不正を国家ぐるみで行っているなんてあまりにも怖すぎる

冒頭の偶然撮影された悲惨な事故映像も凄かったですが、死者27名負傷者180名を出す大惨事となったライブ中の火災が発端となり、次々と明るみになるのは衝撃的な癒着の数々
命よりも金が優先され、救えた命まで犠牲となる信じがたい医療汚職

政府の発表に一喜一憂し、身の危険さえも感じる記者たちの憂わしい表情をそのままに映し出す桁違いの臨場感、フィクションとは思えないほどの作り物のようなスリリングな展開に、命を顧みず真実に迫ろうとするジャーナリストたちの奮闘に思わず手に汗握るだけでなく、地道な調査報道を続けるジャーナリストを追う前半から一転、後半では熱い使命を胸に就任した正義感あふれる新大臣を追うという、逆の立場にある2つの視点から事件を描いた展開がノンフィクションとは思えないような撮れ高で、まさにドキュメンタリーの理想形

マスメディアが権力に屈したら終わりというのは、政治ドキュメンタリーで良く耳にはするけど、これほど根っこから腐りきった国はどうすることも出来ないのではないだろうか
そんな危機的状況に拍車をかけるように、若者たちの投票率の低さがこの国の未来のなさを物語っているのがまた悲惨

これだけ手を尽くしたところで国は簡単に変わらないという現実は、日本人としても非常に考えさせられる素晴らしいドキュメンタリーだったし、今こそまさに観るべき作品だと思います

〈 Rotten Tomatoes 🍅99% 🍿89% 〉
〈 IMDb 8.2 / Metascore 95 / Letterboxd 3.9 〉

2021 劇場鑑賞 No.058
一