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ザ・バンド かつて僕らは兄弟だったのsoのレビュー・感想・評価

4.0
バンドの最後としてこれほどの有終の美はない「ラスト・ワルツ」も素晴らしい。
でも「ラスト」よりも彼らの「ビギニング」である1stアルバム「ミュージック・フロム・ビッグピンク」にこそ、ロックバンドが一瞬だけ持ちうる魔法のように美しい時の流れが詰まっていると僕は思う。
このアルバムをはじめて耳にした時から今に至るまで、何度聴いても彼らの声に、メロディに、オルガンやピアノやギターのハーモニーに、文字通り心酔してしまう。
「ビッグ・ピンク」に何度も癒され、勇気づけられた自分にとって、本作で流れる「ビッグ・ピンク」制作時の写真や映像のすべてが心に直に迫ってくるものがあり、ひたすら驚きと喜びの連続だった。

ウッドストックでピンク色の小屋を見つけるところから始まり、そこに毎日のように5人で集まって作曲し、録音する日々。その頃のすべての写真から、彼らが本当の兄弟の様に親密だったことが伝わってくる。
そんな彼らだったからこそ、ずっと一人で演奏してきたボブ・ディランは彼らに「バンドの魅力」を感じ、惹かれたのではないかと思った。
ディランが彼らに可愛い大きな犬を贈っていたのも微笑ましくて良かった。犬を贈れる関係性も良いし、ディランがザ・バンドの音楽性や彼らの人柄を熟知していたからこその贈り物な気もする。

そして、実り多き「ビッグ・ピンク」期の結実のように語られる「ザ・ウェイト」誕生のエピソードは鳥肌もの。

以降の活動も語られはするが、ドラッグが原因で崩壊していくバンドの物語はただただ悲しい。特にリチャードの話をする際の皆の悲痛な表情や言葉が印象に残っている。

急にヒゲをそり襟を立てスカーフも巻きだした「ラスト・ワルツ」でのロビー・ロバートソンの姿には正直インチキくささを感じてしまっていた自分だが、本作で見る彼はそんなイメージとは全く違っていた。
実は他のメンバーよりも地味な出立ちで(丸メガネが似合っていた)、他のメンバーが酒やドラッグに溺れる中でもひたすら黙々と作曲し続けた、バンドの中心的存在でありながら縁の下の力持ちでもあるような、かっこいい人であった。

とはいえ、死人に口無し。
本作では無論ロビーが善人、リヴォン・ヘルムが悪人のように語られるが、その辺りの真偽はおいておこう。
とにかく彼らが残した普遍的な真実である音楽を、優しく力強く美しいそれらを、今まで以上に愛し聴いていこうと思う。
so

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