Oto

RUN/ランのOtoのレビュー・感想・評価

RUN/ラン(2020年製作の映画)
4.0
『Search』監督の次作で期待していたけど前作以上に良かった。脱出劇の中でもミッションが時々刻々とテンポよく変わっていく楽しさに加え、強引な展開もだいぶなくなったし、家や病室というミニマルな空間の中ですぐ近くに悪役がいるというハラハラ。

自主映画の延長のような作品でありながらハリウッドのエンタメに昇華されているという、自分にとって割と理想系の脚本に近い。衝撃や驚きを派手な出来事で作るのではなくて、身の回りの生活圏の中で作るのが上手い作家。

主演の二人も今まで存じ上げなかったけど迫真の演技で、特に母親の狂気はアッパレだった。人気役者の力を借りるわけでもなく、原作があるわけでもなく、莫大な予算をかけてセットを用意しているわけでもなく。しかも未曾有のウィズコロナの時代に、配信でしっかりヒットさせてるの本当にすごいと思った。

勉強のために、もし自分だったらどうやってこの企画に辿り着けたかを再現してみる。

・コロナ禍で家から出られない人も多いし、前作はオンライントリックの話にしたけど、リアルでの制限をつけて「家から逃れられない人」が主人公のハラハラする物語にできないか。『ルーム』や『エクスマキナ』のような小さな脱出劇のイメージで作ろう。

・「代理ミュンヒハウゼン症候群」(傷つけた上で世話をし続ける親)という疾患と、毒親を子が殺したブランチャード事件という興味深い事例もあったな。よし、母親をヴィランにして、親ばなれのタイミングとしてわかりやすい「大学進学」を機に、自身の障害が偽であることに気づいていく少女が主人公だ。

・母親の人物像は…強烈な過保護のシングルマザー。大切な娘を絶対に手放したくない、もっと言えば何もできなかった赤ちゃんの頃に戻って欲しいくらい。すべてを犠牲にして愛してきた存在を今さら大学になんてやれない。その執念をさらに出産時まで遡るなら…。

・娘はどうすれば親の嘘に気づけるか。薬の正体に気づく…?でも一気に解決すると面白くないし。親はきっと自分の名義で薬を買うはずだから、それをたまたま見てしまうとか。尋ねれば当然ごまかすけれど、パッケージは騙せても中身の色は騙せない。彼女が外界と交流できるとすれば…WEBの検索か電話。電話がバレそうになれば緊張するし、徐々に疑いを確信へと変えていこう。薬も飲まないようになるはず。

・買った薬局に行くとするならば、映画中にトイレと偽って抜け出すことくらいしかない。行列が長ければスリリングだし、そこでもし自分の薬が「人間用ではない」と知ればもうそれは確信だ。(プライバシー的に無理と言われてクイズなんだという言い訳は厳しいと思ったし、ここで薬剤師が親子を見逃すのは少し納得がいかないけど)

・元の事件では秘密の彼氏の協力で解決したけど、彼女自身を奮闘させたい。それなら「工学の知識に優れた少女」にして、脱出などの道具を自分で作らせよう。障害の困難をテクノロジーで乗り越えるのは社会的なテーマとしても良いし、家庭の舞台でもミッションを作れる。窓ガラスだって、ハンダゴテと冷水を使えば熱衝撃で割れるぞ。

・一方の気付かれた親は相当焦るはず。脱出されないよう、用意周到に閉じ込めるはずで、車椅子移動ができないように階段も封じるはず。だとしたら娘が使えるのは、屋根経由と階段。これは喘息持ちでもある彼女にとって相当命懸けのミッションだ。ミッドポイントになるぞ〜!

・外に出ても車はないけど、道端で助けられるとしたら、配達員のおじさん。彼には警察へ連れて行ってと訴えるはず。でも主人公は追い込めが鉄則だから、成功しそうなタイミングで母親に戻って来させる。ここまできたらもはや母は、娘を生かしてはおけないくらいの気持ちにまで至るだろう。目撃者は処分して、娘は閉じ込めて言いなりにしてリセットしよう。

・今作のボトム、大きな裏切りを見つけるとしたら、「本当の親ですらない」、つまり新生児誘拐。流産をした母が、彼女を自分の子供がわりにして、障害を持って生まれて亡くなった娘の代替として育てさせるんだ。ここまでの異常行動も深い悲しみが原因なら説明がつく。扉の奥にある光を遮る存在が母だ、きっと母自身も辛い虐待を受けてきたんだろう。なるべく説明を削って映像で描写しよう、テンポも飽きさせないようにして90分くらいでコンパクトに。

・でも娘は赤の他人とわかって和解なんてできるはずないし絶体絶命。もし唯一外に出る方法が残されているとしたら、自分が大切な母を利用して、捨て身で毒を飲む作戦だ。入院すれば他の大人とも会える。そして医師に母の正体を伝えればハッピーエンドだ。出産後の手術シーンももう一度使えて好都合。

・でもここで成功はまだ早い。毒を飲んだあとならすぐには話せないはずだし、あの母だったらもう一度くらい誘拐したっておかしくない。娘にできることは手書きで少しメッセージを残すくらいか。それに気づいた医師が警備員を呼ぶだろうし、母の暴走を止められる。

・クライマックスで伝えたいテーマは、母が「すべて娘のため」と言っている行動は自分のためのものでしかないし、自分なしでは娘が生きられないと思っているけど、娘は明確に「母を必要としていない、むしろ邪魔に思っている」ということ。自立の象徴として脚が使えるし、階段で主従の逆転も伝えられる。

・大学に行って自立して頑張っている様子を描くのはさすがにお伽話みたいで嫌だな。逆転というくらいなら、母親に毒を盛るようになるくらいまでやってもいいか。幼少期の環境は人格に大いに影響するし、意図せず母の性質を継承してしまうこともあるはず。扉の前に立ちはだかる母親を絶望の象徴として描いてきたから、最後は金属探知機を自分の足でくぐり抜けることで自立を表現しよう。

トリビア
・娘が観ていたYouTubeのサムネはSearchに登場した少女。
・薬剤師の女優は、監禁モノの元祖『ミザリー』出演女優。
・母の幼少期に、彼女を虐待していた母が目の前で自殺する、という削除シーンがある。
Oto

Oto