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ビバリウムのTEPPEIのレビュー・感想・評価

ビバリウム(2019年製作の映画)
3.5
一見、鑑賞者を選びそうな作品だが、蓋を開けてみれば驚くほどメタファー映画の入門編みたいなものだった。「ビバリウム」はスティーヴン・キング作品を彷彿とさせる面白く、興味深いスリラー要素を兼ね備えた社会派作品としても鑑賞者が釘づけになる映画だった。

ジェマとトムは家を購入するために不動産屋を訪れていた。店主のマーティンは2人に最近開発されたばかりの宅地、ヨンダーにある家を購入するよう勧めた。マーティンの案内でヨンダーの9番地にやって来た2人だったが、その虚無感を不気味に思い帰ろうとしたが、マーティンは車を残したまま姿を消してしまった。2人は自力でヨンダーから帰ろうとするも、どうやっても9番地に戻ってきてしまうのだった。
そこから悪夢のマイホーム生活が始まり、1人のバカ成長が早い赤ん坊を育てれば摩訶不思議の世界から解放されるというルールに従って、狂気が蔓延していくカップルの様子が描かれる。

この作品はカッコウ科などの鳥類に見られる、托卵がメタファーになっているが、そこに難解さはなくむしろ単純明快。
映画序盤から分かりやすいくらい伏線を張っており、「ビバリウム」というタイトルの秀逸さが心地よい。
ビバリウムは、生きものの生息環境を再現した飼育・箱を指すが、このヨンダーという住宅街もまさにそれ。

人間は自然の摂理であるという、微々たる野暮であり、非常に強引で便利な言葉を使う。しかし人間が初めて自然の摂理という言葉で片付けられる状況になった時のその滑稽さを本作は痛いほど見せつけてくる。
ヨンダーのビジュアルや、映画の作りはアメリカ映画には出来ない虚無感や不気味さ、奥行きがあった。デンマーク、アイルランド製の「パラドクス」。その摩訶不思議な空間に説明は不要なのだが、それにしたって観客に委ねすぎている感じも否めない。
アイデアの膨らませ方も楽しい、惹きつけるものが多い反面、当惑してしまうくらい無理解なものも多い。
要は、ちょっと欲張りすぎ。

ジェシー・アイゼンバーグ、イモージェン・プーツ両者の演技は鬼気迫る。閉鎖空間における、「夢の我が家」。その住宅街は絵に描いたような、富裕層の縮図。典型的な不動産広告。随所に挟まれるアイロニーは、せっかくなんだから、もっと大々的にしても良かった気はするが。

総評として、「ビバリウム」はスリリングな展開やストーリー、演者達の熱演に非常に惹かれるが、こじつけっぽく、難解というよりも観客が当惑してしまう要素も多い。個人的に政府の実験関係とか、「キャビン」に乗っかったものが作られなくて本当に良かったと思ってます。
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