LalaーMukuーMerry

グッバイ、レーニン!のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

グッバイ、レーニン!(2003年製作の映画)
4.5
僕の名はアレックス、東ドイツベルリン在住の若者。赤ちゃんを連れて出戻りの姉と母との三人暮らし。父は10年くらい前に女を見つけて西側に逃げたらしい。当時母はショックでもぬけの殻状態になったけど、そこから立ち直ると一転して明るい社会主義国の模範的市民になった。教育熱心で社会を良くしようと社会活動を積極的にやって、投書をしょっちゅう出し、締めの言葉はいつも「社会主義、万歳!」。そして国から祖国功労賞という賞を何度も受けた。優しくて子供思いの自慢の母だ。
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1989年の建国記念日(10月7日)に行われた功労賞の受賞パーティーに出かける途中、その母が倒れた。
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母の意識がないまま過ぎた8か月の間に、世の中は嵐のようにもの凄く大きな変化をした。ホーネッカー議長が退任して、ベルリンの壁が崩れ、人々が東側から西側に一気に移動した。同時に西側のモノがどっと入って来て、身の回りのあらゆるモノが置き換わっていった。通貨も変わった。学校の先生も、英雄だった宇宙飛行士も失業した。みんな別の仕事についた。初めての自由選挙も行われた・・・
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そんなこんなを、母は何も知らないまま眠ってすごした。母の意識が戻って僕は喜んだけど、医者からは「記憶もまばらだからショックを与えてはならない」と念を押された。けれど、こんなに世の中が変わったことを母が知ったら絶対ショックを受けるにちがいない。僕は、母がショックをうけないように頑張ることにした。その企てに、姉も、恋人のララも、近所の人も加わってくれた・・・
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久々に観ましたが、ディテールはすっかり忘れていたから、かえって新鮮でした。これはやはり名作ですね。
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自分たちでつくった時事ニュース番組ビデオをTVに見せかけて母親に見せるのには笑った。西側のモノが押し寄せて東側の日常品が急になくなっていき、西側の生活に慣れていかざるを得なかった様子が生活感をもって描かれ(ピクルスのエピソードとか、古き良き社会主義時代の誕生日のお祝いとか)、当時を物語る映像が効果的に挿入されていて、とても興味深いです。
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90年ワールドカップ・サッカー・イタリア大会でドイツが優勝した時、Jリーグはまだなかったし、日本ではそのニュースはほとんど流れなかった。公式記録では「西ドイツ」優勝となってるけれど、当時の旧東ドイツの人は「ドイツ」優勝と受け取っていたんですね。
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とてもよくできたコメディですが、この作品が心に残るのは、何と言っても親孝行息子が示す母親への強い想いのおかげでしょう。社会体制に関係なく、家族が一番!なのです。
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アレックス君よく頑張りました! お母さんは、うすうす気づいていたはずですけどね。君に感謝しながら逝ったのだと思いますよ。
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ニュースつくりが、「母のため」から「理想の国を求めて」に変わって行ったという心情には共感を覚えました。難民を受け入れるのを拒む風潮になってきている今の先進国の姿を、アレックスが見たとしたら何を感じるのだろう?