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国葬のptitsaのネタバレレビュー・内容・結末

国葬(2019年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

12/10(木)イメージフォーラムにて.

とてつもない衝撃を受けました.『粛清裁判』から連続で観ましたが,僕には『国葬』の方がより強い印象を残しました.
今でこそスターリンは独裁者であることは世界中で知られている(尤もロシアでの人気はまた高まってきているようですが)わけですが,当時のソ連の人々にとっては心から「国父(вождь)」だったことがよくわかります.冒頭からモスクワだけではなくソ連各地において,ラジオや新聞を通じてスターリンの死を知らされていくシーンから始まります.モスクワだけではなく,アゼルバイジャンの海沿いの街や,タジキスタンの小さな村,ヤマロ・ネネツ自治管区の原住民の村,5ヵ年計画の象徴であるマグニトゴルスクなど,さまざまな場所のさまざまな出自の人々が,スターリンの死を一様に悲しんでいきます.各地でスターリンの死に際してお悔やみとばかりに共産主義建設へのスローガンが勇ましい言葉で叫ばれるとともに,同じような花輪やスターリンの肖像や写真などが次々と運ばれていきます.それでも,例えば第二次世界大戦(1945年まで,スターリンの死は1953年)の過程でソ連に併合されたバルト三国やウクライナ西部のリヴィウでは比較的泣いている人が少なかったように思いました.
スターリンが亡くなったのは3月であったため,多くの地で雪が残っています.寒々しい彼らの精神状態が反映されているかのようです.

葬列のシーンでは,スターリンの遺体を映す映像が非常に画質が良い状態で残存していることに驚きました.画家たちがスターリンの姿を一生懸命に描いている場面が特に印象に残っています.そして,一般大衆がスターリンの姿を一目見るために会場の中に入ってくるわけですが,驚くほど多くの人が心から涙を流しているのです.

そして,葬儀が終わりレーニン廟に移されるまで,大勢の人がスターリンの棺とともに移動していくわけです.その間15分程度でしょうか,ひたすらショパンの葬送行進曲をバックにノロノロと運ばれていく大勢の人々の行進を映していくのです.その荘厳な音楽にも影響されて,何やら違う星の出来事のような,現世の出来事ではないような,浮遊感を感じました.
おそらく残存しているさまざまなフィルムをつなぎ合わせたのでしょうが,カラーとモノクロの映像が交互に現れるのも斬新な表現技法だったと思います.

圧巻は最後の空砲が各地で鳴らされる音,蒸気機関の警笛が一斉に鳴らされる音,そして誰からともなく帽子を外し祈りを捧げる各地のソ連国民の姿が次々と映されていきます.漁港,土木,建設などさまざまな労働現場で労働を中断し,一様にスターリンに祈りを捧げるのです.鳴り響く轟音と過酷な労働環境の中で静謐な哀しみに浸る彼らの姿は,現代の宗教画を見せられているかのような峻厳な様子を呈しています.その後,子守唄とともに,レーニン廟を映したのち,群衆の何気ない話し声をバックにスタッフロールが流れ,映画は終わります.映画館を出た後駅に行くまでの渋谷の人混みが少し気持ち悪く感じられました.

とりあえず取りとめなく書いてみましたが,もう少し考えてみてまとめ直してみようと思います.
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