ハル奮闘篇

まともじゃないのは君も一緒のハル奮闘篇のレビュー・感想・評価

4.3
【 2021年日本映画マイ・ベストテン & 変人男女のズレまくる恋 】

 僕の2021年の日本映画ベストテンを紹介させていただきます。

1位「アジアの天使」
石井裕也監督・脚本。日韓のふた家族がともに旅して、やがて国籍と言葉を越えていく。痛みを共有して寄り添うように生きるオダジョ、池松壮亮らのコミカルな人間賛歌。

2位「茜色に焼かれる」
 石井裕也監督・脚本。シングルマザーに対する世の中の理不尽な冷遇。しかし矛盾だらけに見える彼女の行動も次第に「何ひとつおかしくない」と思えてくる。コロナ禍の映画。

3位「ドライブ・マイ・カー」
 濱口竜介監督・脚本(共作)。車の中で、行きついた地で、自分の心に向き合う。秘密と嘘が少しずつ明かされ、心が解き放たれていく。圧巻のクライマックス。受賞ラッシュになるでしょうね。

(*以下、順位は同着のようなものです。甲乙つけ難い!)
4位「花束みたいな恋をした」
 恋のはじまり、絶頂、すれ違い、違和感、倦怠、終わり。ひとつの恋を「体験」した。ラスト近くのファミレスのシーンで、僕はあのテーブルにいた。

5位「すばらしき世界」
 真っ直ぐすぎて生きるのが下手な男に対する、西川監督の愛と敬意。就職が決まって笑顔で駆けだす役所広司が忘れ難い。
  
6位「街の上で」
 その瞬間の空気を映画の中に閉じ込めた。下北沢の青春を感傷なしで描ける今泉監督は、まだ街の上にいるのだ。    

7位「あのこは貴族」
 違う世界で生きてきた二人の女性が、お互いの世界を垣間見る。理解し、寄り添い、受け入れる。静かだが力強く逞しい。

8位「まともじゃないのは君も一緒」
  
9位「BLUE/ブルー」
 ボクシング版 トキワ荘の青春を目指したと言う。それなら穏やかな意志を感じる松山ケンイチは寺田ヒロオだろう。吉田監督らしからぬ真っ直ぐさはボクシング愛ゆえか。

10位「子供はわかってあげない」
 少女のひと夏の冒険は、実の父親探し。終始笑っているヒロイン上白石萌歌。募っていた気持ちが溢れ出すラストが爽やか。

次点「映画大好きポンポさん」
  編集の面白さ、大切さをアニメで観られるなんて!

*2021年1月1日~12月23日公開映画
*下半期はほとんど映画館に行けず、ベストテンは上半期公開作に偏りました。
*残念!見逃し映画 「JUNK HEAD」「東京リベンジャーズ」「サマーフィルムにのって」「由宇子の天秤」


 こうやって並べてみて、改めて、映画の作り手たちが、多様性と寛容・不寛容を描いていること、自分がそういった「今の映画」に惹かれているのがわかりました。秀作揃いで満足しました。


 さて、ここから「まともじゃないのは君も一緒」です。

 「社交性ゼロ男」の予備校講師・成田凌と、「恋愛経験ゼロ女」の女子高生・清原果耶の共演。特に、清原果耶のコメディエンヌっぷりが遺憾なく発揮されています。(この娘はもはや、おかえりモネではない!)

 マンツーマン授業の時間前。受験生のカスミはインチキくさい青年実業家に熱をあげていて、予備校講師の大野に熱弁を奮っています。(以下、本編から聴き取り)

「私たちのこれからはね、今までの大人たちが生きてきた時代と本質的に違うの」
「何が違うの、本質的に?」
「つまり根本的に違うの」
「何が?」
「時代が!」
「どういう?」
「だからスゴい時代になるの!…もう先生と話してると話、進まないよ」
「その宮本って男の人はどこがいいの?」
「…新しい生き方を提案してるトコ?」
「どういう?」
「今までとは違う生き方! 日本語わかんないの!?」
「日本語はわかってるよ。ただ具体がないから」
「…(悔しい)」

 一方、女性心理がわからない大野にカスミは「顔はいいのにもったいない!」「中身がまともなら絶対彼女出来ると思う。普通の会話ができれば」と焚きつけ、大野は「普通ってなんだか僕に教えてくれないか」と前のめりになっていく。こうして二人の「普通探し」が始まります。

 で、この映画のキャッチコピーは… 「普通がわからない男」と「普通を知ったかぶる女」が織りなすズレ感全開のニューコメディの傑作誕生!

 うん、新しいです。