塚原直彦

空白の塚原直彦のレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.4
毎作品イヤらしいぐらい人間の魅力と欠点を炙り出し、心の機微のデリケートな所に手を突っ込みかき混ぜて映画ファンのツボをくすぐりまくる吉田恵輔監督の最新作。
個人的に今年の現時点でNo.1作品。

スッとそこに仁王立ちしているだけで恐ろしい古田新太さんはその顔面の圧も含め、まさにハマり役。
キャラクターも誇張しているようで実はかなりフラットに演じており、力加減がとにかく巧い。
劇中同様そんな彼に押され気味に見えるが、実は本作のバランスを保つのは対する松坂桃李くん。
徹底的に引き算で作られた演技のおかげで最早イケメンオーラは皆無。
そして一番の白眉は周りの脇役のあまりに然り気無いリアルさで、そこだけでも他作品の追随を許さない。

この映画は矛盾しているようだが様々な空白で埋め尽くされている。
空白のシーン、空白の関係、空白の祈り。
彼らがその空白を埋めようとして、己自身の空白に気付くのはどこまでも切ない。
失ってからそれらを埋めようとするのは永遠に不可能であり、そこに改めて気付けただけでこの映画は我々が日々忘れていた空白を埋めてくれる。
塚原直彦

塚原直彦