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ザ・ファイブ・ブラッズの砂場のレビュー・感想・評価

ザ・ファイブ・ブラッズ(2020年製作の映画)
4.3
スパイク・リーの黒人差別への怒りが強烈でBLMの流れも考えるとそっちの印象に引っ張られるのだがスパイク・リーは非常に複雑なものを複雑に考えられる人だと思う。
ベトナム戦争をどの視点から描くかによってかなり映画の印象は変わる。貧困な若者と正義(プラトーン)、底辺ロシア移民(ディア・ハンター)、西洋植民地政策と幻覚(地獄の黙示録)
本作「DA 5 BLOODS」は一義的には貧困黒人の視点から描かれているのだが、スパイク・リーはもう少し複雑な諸相を描こうとしている。
一つは南北ベトナムであり、ソンミ村の虐殺などのイメージでは特に北ベトナム人から見ると黒人含むアメリカ人が加害者である。この観点から黒人を単なる被害者としていないことは明白だ。

さらにフランス人。ベトナムに行くとまだフランス植民地時代の名残を多く見ることができるがフランスの占領からベトナム戦争への流れも忘れることはできない。

ポール等五人のベトナム機関兵は、戦友の遺骨と戦闘中に埋めた金塊を掘り出すためベトナムのジャングルツアーを決行する。現在でもまだ地雷が埋まっている危険地帯である。
前半はトレジャーハンター的な冒険物語風であるが、金塊を手にしたあたりから各メンバーの思惑がズレて不協和音を生じ始める。
途中でフランス人の地雷除去NGOとも行動を共にするが、突然攻撃される一行。これは運び屋として契約したフランス人の商人の罠なのか、、、

五人の元兵士である黒人の真の敵は誰なのだろうか、、黒人は被害者なのだろうか、加害者なのだろうか。被害と加害を巡って黒人、白人、ベトナム人の視線が交錯する。
北ベトナムのラジオDJの演説が象徴的であり、彼女は黒人GIに向けてあなた方の真の敵は白人なのだと放送し、気持ちが揺らぐ5人。
というようにことの次第は複雑なのだ。

この映画を見ていて、興味深かったのはアメリカという国家に対する忠誠とキリスト教に対する信仰は黒人の中でも最後の拠り所感があるんだなということ。この感覚は日本人には実感しにくいものがある。
もちろん、アメリカという国家に裏切られた人々と黒人を定義することはできるが、最後のキング牧師の演説にもあるようにアメリカは祖国ではないが祖国にすることはできるというような拠り所感はあるのだ。

この辺が同じ黒人でもブラックムスリムとかアフリカ回帰へと流れる人々と、あくまでもアメリカというキリスト教国家を拠り所とし、多少はましにしたいと考える黒人の差になるだろう。
スパイク・リーの本作はモハメドアリが冒頭登場するし、「ブラック・パンサー」というブラックムスリム的なユートピア思想の映画の主役チャドウィック・ボーズマンもキャスティングされていることからも黒人ユートピア思想の一端は感じられるが、、、、
スパイク・リーはそのような大きな思想というものを重視しているようには見えない、もうちょっとシンプルに仲間を大事するみたいな考えなのではないか。それがベトナム人、フランス人、アメリカ人であろうとも。

ところでタイトルであるが、黒人英語表現である「DA 5 BLOODS」をネトフリジャパンは何故「ザ・ファイブ・ブラッズ」としてしまったのだろうか。これには文句を言いたい
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