優しいアロエ

ザ・ファイブ・ブラッズの優しいアロエのレビュー・感想・評価

ザ・ファイブ・ブラッズ(2020年製作の映画)
4.0
〈黒人への両義的見解を提起する黄金の冒険譚〉

 続編公開を控える『ランボー』に軽くジャブを浴びせつつ、ベトナム戦争の「加害者」であり「被害者」でもある黒人帰還兵へと切り込んでいくスパイク・リーの新作が、突如、Netflixから投下された。

 塩が多ければ? 砂糖を足せばいい。
政治色が強ければ? エンタメを足せばいい。
数多のフッテージや時事問題を盛り込みながらも通俗的で明快なスリルで魅せるのが、いまのスパイク・リーの仕事の流儀。『ブラック・クランズマン』にひきつづき、骨太なポリティカル・エンターテインメントを飄々と世に送り出した。リーの初期作品に通底した“ブルックリン郊外における市井の喧騒”が鳴りを潜めてしまったのは惜しいところだが、いまはリーなりに時代のニーズを弁えた娯楽作が花咲かす季節なのだろう。
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 さて、ベトナム戦争はその体内に人種差別のシステムを宿していたことで知られる。『プラトーン』でも描かれたように、戦場に派遣された兵士たちは貧困層や学歴の低い若者を中心に構成されたため、自ずと黒人の割合が引き上がる。本作の黒人帰還兵は、その点で自らを戦争の「被害者」だと自覚している。と同時に、「戦死する」「PTSDを発症する」といった兵士としては普遍的な被害者像も提示することで、黒人兵士に言及がとどまることを回避している。

 しかし、そんな黒人兵士もベトナムから見れば「アメリカ人」であり、「加害者」という目からは逃げられない。さらに、本作の黒人からはベトナムの人々への軽蔑が窺えるのだが、それは戦争で敵対したからというより、先進文化から後進文化への見下ろしのように捉えられる。黒人の立ち位置を多角的に描くのは実にスパイク・リーらしい。

 リーはこれまでも「黒人=被差別者」「黒人=被害者」といった固定観念の融解に挑んできた。『ドゥ・ザ・ライト・シング』では黒人が韓国系に対して差別的な発言をするシーンがあるし、『モ’・ベター・ブルース』『クルックリン』など、黒人が地域的にマジョリティになることで一部の人間を虐げる側に立ってしまう事実はさまざまな作品に見受けられる。

 スパイク・リーは視野狭窄的で熱苦しい監督に見えて、実は俯瞰的な視点に富んでいる。アメリカにおける黒人たちを〈WakeUp/CillOut〉の狭間で揺動させ、〈被害者/加害者〉の両義的解釈を作品に忍ばせてきたのがスパイク・リーだと云えるのではないだろうか。

 『地獄の黙示録』へのオマージュやグザヴィエ・ドランのようなアス比魔術も光るのだが、いかんせん中盤以降の展開は上手くなかった。地雷が近くに眠っていることを知っているとは思えないムーブを平気でかますし、死んだ仲間の扱いは呆気ないし、フランスの贖罪マインスイーパーたちも活かしきれていない。ともあれ、オスカーへの参戦には期待したい一本だ。
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