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ヤクザと家族 The FamilyのOtoのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
3.8
重厚。これはたしかに、ヤクザと「家族」。

『アイリッシュマン』や『グッドフェローズ』など、スコセッシ作品をはじめとして「ヤクザの栄枯盛衰」を描いた作品って今までにも沢山あった中でも、かなり真っ直ぐにひとりの男の人生を見つめている作品。
三時代を描くというのも共通点の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』に近い読後感で、彼の人生を追体験したような疲労感と充足感。

アクションというのもあってわかりやすく娯楽性を担保している。自暴自棄の一匹狼が親分に拾われて擬似家族を作り大事な女ができて…というジャンル映画のお決まりをなぞる前半と、『すばらしき世界』とかなり近いテーマの、変わってしまった社会に困惑する後半。

ただこの映画のユニークな点は、周囲が変わっていく中でも、「義理と人情」を優先して行き続ける哀しさと美しさにあると感じた。
密猟する老人、癌に苦しむ親分、薬に溺れる兄貴、社会復帰する弟分、娘と力強く生きる元妻…。山本に憧れる翼をむしろ痛々しく感じるくらいに、世の中が変わっている中で、一度はたしかに更生を誓った男が、世間の冷たさによって大切な家族を傷つけ、自信を失い、自分が唯一誰かの力になれる道として、一貫して「代わりに手を下すこと」を全うするのは、言葉にできない虚しさがあった。

許すということは知るということなんだろうと思う。役者の同僚、ネット上の人々…自分は圧倒的にこちら側の人間なので、知ろうとすることくらいしかできないし、「5年ルール」に加担する側の人間だけど、ヤクザも風俗嬢も、そのようにしか生きられない人が、社会から色眼鏡で見られて居場所を失う苦しさ。この映画を通して彼らの苦しみを知るか、それとも知らずに暮らすかは大きな違いがあると思う。

唯一の救いはラストシーン。継承ものと呼んでいるLEONやMUDと同じく、山本がたしかに後世に残したものがあるということ。いやむしろ創作も仕事も、それくらいしか存在意義ってないのかもしれないとすら思う。
最近読んだ『チ。』でも、「命をなにかに捧げられるのは、託す相手と託したいものがあるということ」というシーンがあったけど同じことを言っている。

映画としては誰もが楽しめる刺激に溢れていた分、『すばらしき世界』の方が自分の世界の話という実感が強くて(というか、悪役がすぐ外ではなく内にいるという点で)好きだったけど、技術レベルの高さはすごく印象に残った。
役者陣は言わずもがな、どのシーンも「陰影礼讃」を徹底した照明がキマっているし、撮影も部屋が回るカットとか、走り抜けた後の天地反転とか、マネしたいものがたくさんあった。
あとは、扉が効果的に使われていて、ヤクザが社会から断絶された存在であることがしつこく描かれているのがよかった。監督自身が選んだモチーフは煙らしいけど。

豪華キャストに派手なアクションに社会性、日本アカデミー賞の次々作とだけあって抜け目のない作品。映画祭で審査していただいたことがあるけど、社会を見る視点が鋭い人だなぁと思う。いま現代劇を撮りたくないという気持ちがあると言っていたけど、たしかに最後が2019でないとしたら全然違う映画だなぁ。
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