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海の上のピアニスト イタリア完全版のhiyokoのレビュー・感想・評価

5.0
新たな時代が始まろうとしていた1900年。ヨーロッパとアメリカを行き来する客船の中で、落とし物を物色していた一人の船乗りが見つけた、置き去りにされた赤ちゃん。
育ての父の名と、入れられていた箱と年にちなんで"ダニー・ブードマン・T・D・レモン・1900"と名付けられたその子は、船員たちに見守られながら、船の中で成長することとなる…。

Twitterで見かけた、揺れる船の中で奏でられるピアノのワンシーンに強く惹かれて、ずっとBD購入を検討していた作品。
今月登録したWOWOWオンデマンドで「イタリア完全版」が配信されているのを見つけ、思っていたよりも早く観ることが叶いました!

それは、ジャズ奏者として船に乗り込んだマックスが1900と初めて出会う場面。
嵐に大揺れの船内を、一人優雅に歩を進めていく男の姿に目を奪われる。
車輪止めを外し、大波と共に踊り滑るピアノに乗った2人の、"海とのダンス"。
短く交わされる会話の中で、「あっ、やっぱり1900だ!」と心が弾んだ。
軽やかで美しいメロディ、自然と一体化するような開放感。
はじめから惹かれていたシーンでしたが、実際に映画を通して観ていると、涙が滲んでくるような素晴らしさがありました…。

息をするかのように、鍵盤を行き交う指先から生み出されていくリズム。
音楽の神様に愛されたような気品を持ちながら、どこか純朴で少年のようでもある、飄々とした悪戯っぽい笑顔。
一歩も船から出ることがなくとも大きく広がる彼の心の世界、そして言葉には出さない孤独。
"1900"という人間が心に降り立ち、映画を超えて、一人の人生として刻まれていくような…
そんな愛おしさを感じながら、あっという間に過ぎてしまう2時間50分。

船底の熱気、華やかな客室、様々な人が集う空間。
人々の心が湧き立ち、一体になる瞬間。
船旅を、そして時の中を通り過ぎていく大勢の人生に…言葉にするのが難しい涙が何度も溢れてくる。
1900には何が見えて、何を感じたんだろう。
答えはあるけれど、本当の意味では私にはまだ分からなくて、この先、時間を置いて何度も向き合っていきたいと思った。
輝く時間がいつかは過ぎ去ってしまうこと、それでも、生きることには価値があると感じさせてくれるような…。

映画と音楽を愛する人に、ぜひ一度観てほしくなる作品でした。
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