難民でゲイという、難易度の高い人生を送ってきたアフガニスタン人・アミンが振り返る、生まれ故郷からの脱出の記録。
同じくアフガニスタンからの脱出をテーマにした作品としては、昨年「ミッドナイト・トラベラー」を鑑賞した( https://filmarks.com/movies/85061/reviews/119442250 )。
「ミッドナイト~」は3年間の逃避行を全編スマホで撮影する手法(というか、それしか方法なかったんだろうけど)。本作では、現在推定40歳を越えるアミンの幼少期から青年期が中心なこともあり、アニメに当時の映像を挟む形で作品が作られてる。
冒頭のアニメが、ペンで書きなぐったような線画で
「A-HAの『TAKE ON ME』みたいだなー」
って思ってたら、そのままA-HAが流れてきて笑ってしまった。監督、よくわかってるやんけ。
インタビュー読むと、当時アミンがウォークマンで聞いていた曲を使いたかったらしく、それがA-HAであり、エイス・オブ・ベイスであり、ロクセットであるらしい。
遠いアフガニスタンでも、聴かれてる音楽が、自分らと同じだ、ってことだけでも親近感を覚える。これは良い演出。ここでアミンがずーっとウォークマンでコーランばっか聴いてたら、たぶん俺、こんなに没入できなかった(イスラム教の方、すいません)。
アニメがカクカクなのが気になるという意見もあるが、俺的にはこれはこれでアリだった。逆に、「呪術廻戦」みたいにアミンくんたちがヌルヌル動いててもイヤだし。北朝鮮の収容所を描いた実録アニメ「トゥルーノース」でも感じたが、アニメはこういったシンドい現実を見せる手段としても、とても有効。
アミン一家は、内戦に揺れるアフガニスタンから脱出し、ソビエト連邦崩壊直後のロシアに向かう。だが、当時のロシアは物資不足、腐敗した警察といった厳しい状況。一家は、安住の地を求めてヨーロッパに渡ろうとするが……。
難民という立場の弱い人たちに対する、密入国業者や警察の仕打ち。ロシアで華々しくマクドナルド第一号店が開店している裏通りで行われている、難民に対する暴力やレイプ。マジで当時のロシアの警察の腐敗っぷりにはムカついた。那須川天心は武尊ボコる暇があったら、こういう連中をボコボコにすべき。
このアゲインストすぎる状況の中で、不屈の精神を持ってヨーロッパを目指すアミン一家、強すぎる。
俺だったら
「なんやこのクソゲー!」
ってコントローラー叩き割ってるところだ。
細々とお金を貯め、密航業者に脅されながらも港に向かい、大荒れの黒海をギュウギュウの船に詰め込まれて渡ろうとするアミン一家。酸欠で死にかけるコンテナの中。助けてくれない豪華客船。大荒れの黒海。
どーでもいいけど、船で密航しようとする映画、確実に嵐に遭遇するの、なんとかならないんだろうか。120%くらいの確率で嵐に遭遇するので、もう少し日にち選べよ、と。
まぁでも、嵐がいつ来るか、なんて誰にも分からないもんなぁ。俺的には「アフガニスタンがせめて、瀬戸内海に面していれば良かったのに……」と思ってしまった。
逆に際立つのは家族の絆。特に、スウェーデンで清掃の仕事をしながら、なんとかして家族をヨーロッパに向かわせようとする長兄、いい人すぎる。
特に、弟がゲイだと知った長兄が取った行動には思わず泣かされた。そのシーンの音楽がダフト・パンクの2ndに入ってる「ヴェリディス・クオ」って選曲も最高だった。
このドキュメンタリーというかインタビュー自体が、アミンの救済に繋がっているというメタ的な構造も見事。ラストまで観て、「故郷とは、ずっといてもいい場所」というセリフの意味が伝わってくる。とても良い作品でした。
しかし青春時代を難民として過ごしたにも関わらず、アメリカのプリンストン大学でポスドクやってるアミン、ちょっとスゴすぎないか?
「恋人とキャリアと教育(勉学)から一つを選ぶなら、俺は教育(勉学)を選ぶ」と言い切るアミン。俺だったら確実にニートを選んでるので、自分がちょっとだけ恥ずかしくなった。
(おしまい)