踊る猫

スパイの妻の踊る猫のレビュー・感想・評価

スパイの妻(2020年製作の映画)
3.5
1940年を舞台に重厚なスケールで描かれているようで、矛盾するかもしれないが描かれていることは意外とシンプルだ。つまり、時代の中において人が正気を(優しさを、と言い換えてもいい)保つとはどういうことなのか。そして、正義や倫理と幸福が両立しない場合はどちらを選ぶべきなのか。これらはむろん凡庸な語りになるが「今」の問題でもある。黒沢清は時代の空気を敏感に読みつつ(影響されつつ?)、それを一筋縄ではいかない形でアウトプットする監督だ。そしてそれはこの映画でも変わらない。映画内映画、事実と虚構の二種類のフィルム、廃墟めいた暗がり……といった黒沢の得意な素材を活かしつつ、そこから彼がずっと強迫的に撮り続けている夫婦の問題へと敷衍させ、国家規模の話と恋人同士の問題をシンクロさせることに成功している(言うまでもなくそれは『CURE』や『クリーピー 偽りの隣人』、そしてとりわけ『散歩する侵略者』でも展開されてきたことだった)。ただ、それがやや大人しめにまとまっていて突き抜ける瞬間が感じられなかったので相対的に点は低くなった。ここからもう一歩踏み込んだなにかがあればいいのだが……?
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